賛否渦巻くグレタさん
論議呼ぶ不安煽る運動
昨年、16歳のスウェーデンの少女、グレタ・トゥーンベリさんが地球温暖化を警告し、一躍有名人となった。刺激を受けた学生や生徒たちが毎週金曜日、世界各地で地球温暖化対策デモ集会「フライデー・フォー・フューチャー」を開催。グレタさんは、国連総会で「あなた方が私の未来を奪った」と、対策に消極的な世界の指導者に怒りをぶつけた。
ところで、出る杭は打たれるというわけではないが、反発も呼んだ。批判の声はまず、欧州の極右派グループから出てきた。ドイツのザクセン州の「ドイツのための選択肢」(AfD)のマキシミリアン・クラー副代表は、「哀れな子供だ」と中傷。極右派雑誌のローランド・ホーフバウアー編集長は「醜い娘だ」といった誹謗(ひぼう)を繰り返した。グレタさんの母国、スウェーデンでも右翼ポピュリストの「スウェーデン民主党」のジミー・オケーソン党首は、「環境運動団体の広告塔だ」と単刀直入に批判している。
極右派の主張とグレタさんの活動を同列視できないが、両者の活動には人間の原始的な感情「不安」が関与している点で酷似している。難民殺到、異文化への恐れ、「不安」を煽(あお)る極右派活動と、地球の温暖化の深刻さをアピールし、近未来への「不安」を喚起させる環境保護運動は案外似ている。両者は一種のライバル関係だ。グレタさん批判が極右過激派から飛び出したのも決して偶然ではない。
グレタさんの言動で問題点も浮かび上がってきた。環境保護運動を“世代闘争化”する政治的狙いが見られるからだ。グレタさんの活動を高く評価するオバマ前米大統領は、ベルリンで若者たちに向かって、「君たちは祖父母からどのような音楽を聴くべきか、何が重要であるかを決定されたくはないだろう。どのような世界に生きるかでも同じだ」と述べ、「環境問題は人類の生存をかけた挑戦だ。我々が生きている地球は危機に瀕している。環境保護のため、誰かがするまで待っているのでは成果は期待できない」と強調し、若者たちの「フライデー・フォー・フューチャー」を称賛し、世代闘争を煽っている。
オーストリア代表紙プレッセの著名なジャーナリスト、カール・ペーター・シュヴァルツ氏は「グレタさん騒動はいつまで続くか」というタイトルでコラムを書いている。同氏は、「地球温暖化は人間の活動の結果だけではない。地球、天文学的な次元の要因も考えられる。このままでは地球が滅んでしまうといった終末論的な脅しは逆効果だ。グレタさん周囲の関係者は、若い世代に、『今やらないと世界は終わりだ』といった終末論を展開している。一種の環境宗教団体だ」と言い切っている。
確かに誰の目にも環境問題は深刻だ。地球温暖化、気候不順は長い時間を経て現れてきた現象だ。それだけにその対策も継続性を欠くことはできない。環境問題の対策では短期戦は考えられない。我々の生き方が問われるからだ。ただ、地球温暖化問題を世代間闘争など政争の具として利用してはならないだろう。
(ウィーン・小川 敏)