米国 「パリ協定」離脱で支持基盤固め トランプ政権、中国に不満も


「温暖化」新年も世界に影響

 トランプ米政権は昨年11月、選挙公約を果たす形で、「パリ協定」からの離脱を正式に国連に通告した。温暖化の原因となるガスの排出が世界で2番目に多い米国の離脱は、国内外から大きな声で批判を浴びた。それにもかかわらず、反対を押し切る形で離脱を決めた背景には、支持層にアピールする狙いがある。

 2016年大統領選では、トランプ氏は、国内石炭産業の復活と炭鉱作業員の雇用回復を公約に掲げた。これにより、かつては民主党寄りだったオハイオ、ペンシルべニア両州などで労働者の支持を広げたことが勝因となった。

 トランプ政権はこれまで、石炭火力発電所の二酸化炭素排出量の規制緩和など、オバマ前政権時代の環境規制を次々と撤廃している。

 こうした政策を打ち出すことで、再選に向け石炭や石油などの化石燃料産業界やそこで働く有権者から、改めて支持を得たい考えだ。

 また、トランプ氏の支持層である保守派の間には人為的な要因による温暖化について懐疑論が根強く、「環境保護」を名目に、政府が経済に介入することに対して反発がある。

 トランプ氏も人為的な要因による温暖化について「デマ」と発言するなど、その科学的根拠に否定的な見解を示してきた。こうした立場が温暖化対策に後ろ向きな姿勢を取る一因でもある。

 トランプ政権が脱退を決めたもう一つの理由は、パリ協定が米国にとって「不公平」との不満だ。特に最大の温室効果ガス排出国の中国を槍(やり)玉に挙げ、協定は「中国が温室効果ガスの排出を増やすことを許している」と主張してきた。

 2015年のパリ協定で、当時のオバマ政権は、25年までに二酸化炭素排出量を05年比で26%~28%削減する目標を掲げた。これに対し、中国は国内総生産(GDP)当たりの二酸化炭素排出量を30年までに05年比で60~65%削減。ただ、あくまで「GDPあたりの排出量」であるため、中国の経済成長が今後も続くことを想定すれば、中国は排出量を削減しなくても達成できることになる。

 ポンペオ氏は声明で、パリ協定で米経済が「不公平な経済的負担」を強いられると指摘。国際的な気候変動問題の議論において「我々は現実的で実践的なモデルを提示する」と述べた。

 一方、野党・民主党の大統領選候補者らはパリ協定からの離脱を厳しく批判している。バイデン前副大統領は、ツイッターに「気候変動の危機的な状況が悪化する中、トランプ大統領は科学だけでなく、国際的な米国の指導力も放棄し続けている。恥ずべきことだ」と投稿。サンダース上院議員も「世界を気候変動による大規模な災害に陥れるのは誇るべきことではない」と非難した。

 離脱手続きは大統領選挙の翌日の今年11月4日に完了する見込み。大統領選で民主党の指名獲得を争う有力候補者らは、パリ協定への復帰を表明していることから、同党候補が勝利すれば、新政権発足後に米国が協定に再加入する可能性もある。大統領選に向け今後、気候変動問題をめぐって議論がさらに活発化しそうだ。

(ワシントン・山崎洋介)