中国船「当て逃げ」で比漁船沈没
南シナ海でフィリピン漁船が中国漁船に衝突されて沈没した事故をめぐり、ドゥテルテ大統領の「弱腰」な対応が波紋を広げている。領有権問題で係争中の南シナ海で起きた事故は大きな注目を集めたが、ドゥテルテ氏の親中的な外交姿勢が、改めて浮き彫りとなった。
(マニラ・福島純一)
「臆病者ドゥテルテ」反発広がる
大統領の親中外交、浮き彫りに
事故は6月9日に、中国との領有権問題を抱える南シナ海のリード礁で発生。停泊中だったフィリピン漁船が中国漁船に接触されて沈没したが、中国漁船は遭難した22人のフィリピン人乗組員に対する救助活動を行わずに現場を立ち去った。乗組員らはベトナムの漁船に救助され無事に帰国した。
当初、フィリピン政府はこれを「当て逃げ」だと主張。大統領府のパネロ報道官は救助活動を行わなかった中国漁船の乗組員を「野蛮な行為」と強く非難した。また、故意に衝突した可能性にも触れ、単なる事故ではなく中国政府の関与があるとの見方も示すなど、強い懸念を表明した。
これに対し中国大使館は、当て逃げの事実を強く否定。中国漁船の船長が救助を試みたが、周囲のフィリピン漁船に包囲されるのを恐れ、フィリピン人乗組員がほかの漁船によって救助されたのを確認して現場を離れたと説明した。また、一方でフィリピンとの友好関係を重視し、事故の調査は継続する方針を示した。
しかし、フィリピン人乗組員によると、ベトナム漁船に救助されるまで数時間にわたって現場海域を漂流していたと証言しており、中国側の主張とは大きく食い違っている。
沈黙を守っていたドゥテルテ氏は、6月17日になってようやく沈没事故に触れたが、「軽微な海難事故だった」と述べ、中国側の主張を支持した。これを機に、中国への反発を強めていた政府関係者や軍関係者も態度を軟化させ、フィリピン政府の中国批判は沈静化に向かった。
その一方で、このようなドゥテルテ氏の中国に迎合する発言に対して国民の間で反発が広がった。6月18日にはマニラ首都圏で抗議集会が開催され、デモ隊が中国国旗を焼くなどの抗議活動が行われた。21日にはパサイ市でも同様なデモが行われた。
またソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のツイッター上では、「臆病者ドゥテルテ」が注目トピックになるなど、国民の中国問題に関する高い注目度も浮き彫りとなった。
ドゥテルテ氏は過去にも、フィリピン国内での中国人による違法就労が増加している問題で、中国側に理解を示すような擁護発言で波紋を呼んでいる。就任当初こそ中国への過激発言で注目を集めたが、政権が安定してからは親中姿勢が目立つようになった。
外交をめぐっては、2013年にコンテナ入りの大量のゴミがカナダから送られた問題が論争を呼び、引き取りが難航している件に関してドゥテルテ氏は、「カナダと戦争を宣言する」と発言。さらに外務省が駐カナダ大使を召還するなど強硬な姿勢により、今年5月にようやくゴミの返還が行われたことは記憶に新しい。
しかし、ゴミ問題と海難事故、どちらが人命に関わるかは一目瞭然で、ドゥテルテ氏の外交の「温度差」に疑問の声も絶えない。とはいえ、先の中間選挙では圧倒的な勝利を収めるなど、依然として国民の高い支持率を維持し続けており、今後も親中的な外交姿勢は変わらないとみられる。
片やベトナムは漁業監視部隊が、南シナ海の同国海域で違法操業していた中国漁船を高圧放水砲を噴射して追い払うなど、果敢な対処をしている。
中国国旗を掲げた漁船が南シナ海をわが物顔で違法操業をしている実態に、フィリピンも対策に本腰を入れてほしいものだ。