習主席の比公式訪問

 中国の習近平国家主席が20日、フィリピンを公式訪問した。中国の国家主席がフィリピンを訪問するのは実に13年ぶり。南シナ海の領有権問題で激しい対立を繰り広げたアキノ前政権から一転し、融和姿勢を強調するドゥテルテ大統領の取り込みを確実にし、南シナ海の領有権をめぐる東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との話し合いで有利に立ち回りたい中国の思惑が透けて見える。また、フィリピン側もこれを利用して経済支援を獲得し、立ち遅れるインフラ整備に一気に弾みをつけたい考えがある。
(マニラ・福島純一)

「口先」支援を訝る比世論
南シナ海共同探査で合意

 大統領府を訪れた習氏はドゥテルテ氏と首脳会談を行った後、イスラム過激派の占領で荒廃したマラウィ市の再建事業やダム事業、国鉄再生事業などのインフラ整備の経済支援のほか、南シナ海における共同資源探査で協力することで合意した。

ドゥテルテ比大統領(左)と習近平中国国家主席

0日、マニラで歓迎式典に臨むドゥテルテ比大統領(左)と習近平中国国家主席(左から3人目)(EPA時事)

 ドゥテルテ氏は13年ぶりの中国主席の訪問を「歴史的な機会」だと表明し、「われわれは寛容と協力という新しい章をを綴(つづ)る準備が整った」と述べ、習氏の訪問を歓迎。習氏も「私の訪問は両国交流の歴史におけるマイルストーンになる」と、両国の新たな協力関係を強調した。

 ドゥテルテ氏はこれまでに中国を3回も訪問するなど、大統領に就任後、アキノ前政権の対立姿勢を転換。中国との融和外交を打ち出して経済支援という実利を得る方針を明確にした。

 15日にシンガポールをASEAN関連首脳会議で訪れたドゥテルテ氏は、「南シナ海はすでに中国が掌握している」と発言するなど、中国への傾斜をさらに強めている。

 しかし、フィリピンが大きな期待を寄せる中国の経済支援によるインフラ整備は、いまだにほとんど進展していない状態で、地元メディアからも批判が出始めている。ドゥテルテ氏の任期内にインフラを完成させ、形ある成果として残せるのかが大きな課題になりつつある。

 中国に先駆け、日本政府の支援によりマニラ首都圏の地下鉄建設事業が年内に着工し、ドゥテルテ氏の任期が終わる2020年までに開業する計画だが、それでも全線開通は無理で一部の路線に留(とど)まる見通しだ。

 アロヨ政権下でも中国の支援で国鉄の再建事業が試みられたが、結局2010年の任期満了までに終わることはなかった。中国の口先だけの支援に国民の印象は芳しくない。

 民間調査会社のソーシャル・ウェザー・ステーションが、習氏の訪問に合わせて発表した米国、日本、中国、マレーシア、イスラエルの5カ国に対する信頼度に関する世論調査で、中国への信頼度は最低の数値となった。

 同調査結果(信頼するパーセンテージから信頼しないパーセンテージを引いた実質信頼度)によると、米国が59ポイントで首位となり、これに28ポイントの日本、15ポイントのマレーシア、13ポイントのイスラエルが続き、中国はマイナス16ポイントで最下位だ。

 一方、南シナ海の領有権問題をめぐる中国へのドゥテルテ大統領の対応についての世論調査では、中国の海洋進出に何もしない方針に対し、84%が「受け入れられない」と回答。政府に対して海軍の増強など何らかの対応を求めた。

 前回6月の調査では同じ回答が81%であり、ドゥテルテ氏の融和姿勢に国民の不満がさらに増えた側面が浮き彫りとなった。

 依然として高い支持率を維持しているドゥテルテ氏だが、約束されていた経済支援が空振りに終われば、次期大統領選に影を落とす可能性もありそうだ。国民の落胆によりアキノ前大統領派の野党が政権を奪還すれば、再びフィリピンは反中姿勢に転じることになり、現状維持を望む中国にとっても都合が悪い。今後のドゥテルテ氏と中国の駆け引きに注目が集まる。