ASEAN51周年シンポ、米中貿易戦争で火の粉
東南アジア諸国連合(ASEAN)創立51周年を記念して今月8日、日本アセアンセンターとASEAN各国大使で組織される東京ASEAN委員会の共催で記念シンポジウム「ASEANの挑戦と課題」が開催された。安全保障を契機として出発したASEANは3年前、ASEAN経済共同体(AEC)を発足させるなど、経済活動で紐帯(ちゅうたい)を強めつつあるが、中国との貿易に軸足を置くため米中貿易戦争で打撃を受けると指摘された。
(池永達夫)
三角貿易の構造に変化も
基調講演したのはASEAN経済共同体担当事務次長のアラディン・リロ氏。「ASEANは最初、(ベトナム戦争の飛び火を避ける)政治目的で1967年に設立された経緯がある」とした上で、通貨統合など経済目的が鮮明なEU(欧州連合)との違いを強調した。
リロ氏は「ASEAN事務局はジャカルタに250人の要員を抱えた小さなもの」でしかなく、「EUはASEANのモデルとはなり得ず、あくまでインスピレーションに留(とど)まる」という。
また、ASEANの課題として「労働水準の底上げを図れる技術者の移動の自由を実現するためには、技術者の評価システムが必要」とし、さらに「資本自由化による株式市場の活性化や、域内だけでなく外にも開かれたASEAN共同体の実現」を掲げた。
パネルディスカッションでは九州大学経済学研究院教授の清水一史氏が、「経済統合を推進してきたASEANの歴史」を評価した上で、ASEAN経済共同体創設でASEAN自由貿易地域(AFTA)を完成させ、自由化率約96%を誇る関税撤廃率の高さを強調。80%後半の自由化率でしかない日本の経済連携協定(EPA)と比べても健闘しているとした。
清水氏が言及したのは「経済統合が国際分業と生産ネットワークを支援したこと」で、とりわけ「AFTAに支援され、トヨタ自動車がASEAN域内で主要部品の集中生産と相互補完体制を構築したこと」を評価した。
トヨタはガソリンエンジンやディーゼルエンジン、マニュアル・トランスミッションをそれぞれ、インドネシアとタイ、フィリピンで生産し、ASEAN各国に輸出するシステム構築に成功している。
ただ、清水氏は「ベトナムで自動車関税撤廃は実現したものの、非関税障壁問題が残っている」とした。ベトナムでは、従来の輸入車に対する関税率30%こそ撤廃されたものの、国内輸入の手続きとして、生産国での品質保証や、輸入ロットごとの検査実施を新たに義務付けるなど関税撤廃を骨抜きにする非関税障壁問題が浮上している。
また、三井物産戦略研究所の新井大輔氏は「多くの中間財(部品)や素材が日韓およびASEANから中国に輸出され、中国で組み立てられた完成品が北米やEUなど大市場国に輸出されてきた」三角貿易に言及。中国は、周辺諸国・地域に対しては貿易赤字を抱える一方、主要輸出市場である欧米諸国には巨額の貿易黒字を計上してきた経緯があるが、米中貿易戦争でこの構造が変化しつつある。
清水氏は、「ASEANの貿易の45%は中国向け。米中貿易戦争が激化すると、ASEANが打撃を受ける構造にある」と指摘した。
ただ、中国の対米輸出にブレーキがかかることで、中国生産のうまみは小さくなり中国国内の人件費高騰で始まっていた生産拠点のベトナムなどへの移転がさらに進む「チャイナ+1」がASEANで拡大するシナリオも頭に入れておく必要がある。






