共産勢力と和平交渉再開、ドゥテルテ比大統領が指示
襲撃相次ぎ停戦は不透明
フィリピンのドゥテルテ大統領が政治課題として掲げてきた共産勢力との和平が再び動き出した。共産ゲリラの新人民軍(NPA)が停戦に従うことが条件だが、依然として襲撃が続いているほか、和平交渉に反対する意見も依然として根強く、難航も予測される。
(マニラ・福島純一)
ドゥテルテ大統領は4日の閣議で、共産勢力との和平交渉を再開するよう政府交渉団に命じた。これを受け交渉団は9日からフィリピン共産党の創設者ホセ・マリア・シソン氏の亡命先であるオランダに入り、予備交渉を開始した。政府は2カ月以内という短期間で和平交渉を終わらせたい構えだ。
和平交渉をめぐっては昨年11月に、停戦合意にもかかわらずNPAが襲撃を継続し、民間人が巻き込まれて死亡するなどしたため、激怒したドゥテルテ大統領が交渉打ち切りを宣言。NPAをテロリストに指定し、国軍による掃討作戦を強化する一方、好条件の社会復帰支援プログラムを提示してゲリラ側に投降を呼び掛けるなど、共産勢力の弱体化を図ってきた。
政府は投降した元ゲリラたちを大統領府に招くなど、広報活動にも力を入れた。その結果、今年の1月から2月までに2000人以上のゲリラや協力者が投降に応じており、このような状況をドゥテルテ氏が和平交渉再開の「好機」と捉えた可能性もありそうだ。
ドゥテルテ氏は和平交渉再開の条件として、NPAの完全停戦や企業への恐喝行為の停止を求めている。しかし、各地では襲撃が依然として繰り返されており、和平交渉に対する反対意見も根強い。
ドゥテルテ氏の地元であるミンダナオ島ダバオ市で市長を務める同大統領の娘、サラ・ドゥテルテ氏は、NPAによる襲撃が依然として繰り返されている現状を指摘し、「政府を打倒して国家の統治を欲するという動機に基づく団体」であると、フィリピン共産党を痛烈に非難。「和平交渉は非生産的で明らかに無益」と主張し、父親に和平交渉再開を再考するよう求めた。
サラ・ドゥテルテ氏によると、ダバオ市では先月から今月にかけて、NPAが公共事業に携わる建設会社所有のダンプトラックやバックホーなどの重機10台に放火する事件があったばかり。また昨年に起きた食品会社への襲撃では従業員の男性が死亡し、幼い2人の子供が父親を失ったという。
一方、南カマリネス州でも12日、NPAが建設現場を襲撃し、女学生に流れ弾が当たって負傷させている。同州では10日にも国軍とNPAが交戦してゲリラ4人が死亡し5人が逮捕されている。今のところNPAが停戦に応じる気配はなく、和平交渉が再び暗礁に乗り上げる可能性も否定できない。
ロレンサナ国防長官は和平交渉の再開について、「不当な要求ばかりで何も良い結果は出ないだろう」と観測し、「もし大統領が意見を求めるなら私は再開に反対する」と否定的な意見を述べた。また和平交渉の再開に当たっては、双方の停戦合意が前提条件だとクギを刺した。
フィリピン共産党の創設者ホセ・マリア・シソン氏は、交渉再開を歓迎しながらも、「いかなる前提条件も設定すべきではない」と政府の姿勢を批判しており、NPAが停戦に応じるかは不透明だ。