比の対中姿勢「生ぬるい」
南シナ海問題で教授が批判
南シナ海の領有権問題をめぐり、フィリピン大学の海洋法研究所の教授が政府の対中姿勢を痛烈に批判した。中国は同海域での共同資源探査を協議する一方、フィリピンが領有権を主張するベンハム隆起の名称を新たに提案するなど実効支配の強化を着実に進めており、専門家が警戒感を募らせている。
(マニラ・福島純一)
政府「国益重視」と反論
フィリピン大学海洋法研究所のバトンバカル教授は17日に開催されたフォーラムで、政府の対中姿勢を「とても生ぬるく友好的すぎる」と強く批判した。政府が中国との交渉再開のために関係改善を試みることは必要としながらも、政府の柔軟過ぎる姿勢により中国が多くの利益を得ていると指摘し、「長期的な国益を犠牲にすべきではない」と警鐘を鳴らした。
中国が南シナ海問題の事実上の棚上げの見返りとして約束したフィリピンへの巨額の投資に関しても、「何十億ドルものプロジェクトを約束したが、1年以上経過しても何一つ開始されていない」とその実態を暴露。「われわれは多くのものをあまりに早く中国に売り渡し過ぎている」と述べ、政府に国益を損なわない対等な交渉を行うよう強く求めた。そのためにも、「中国に対してもう何もできない」という政府の態度を根本的に改める必要があると改善を求めた。
南シナ海問題をめぐっては、アキノ前政権が2016年にオランダ・ハーグの仲裁裁判所で、中国の領有権主張を退ける判断を勝ち取ったが、中国との関係改善を最優先とする方針を打ち出したドゥテルテ政権は、判決を一時的に棚上げすることを選んだ。これにより、中国による人工島建設などの軍事拠点化が加速し、同海域における航行の自由が脅かされるとの懸念が高まっている。
このような批判に対し大統領府のロケ報道官は、「われわれは中国との有益な関係を追求しながら国益も維持している」と、バトンバカル教授の主張が事実と正反対であると反論。さらに、南シナ海で漁業が再開されているだけでなく、中国からの観光客や投資も増加していると指摘し、「国民に目に見える利益をもたらしている」と述べ、政府の対中政策が成功を収め、利益を最大限に引き出していると主張した。
カエタノ外相は16日、南シナ海における共同資源探査の実施について、中国と前向きに議論していることを明らかにした。今後3カ月で法的な枠組みを整備し、積極的に進めていくことで中国と合意したという。他国との共同資源開発を禁じる憲法に抵触する可能性が指摘されているが、2004年に南シナ海でベトナムと中国が共同地震調査を行っている前例があり、不可能ではないと説明した。
一方、中国はベンハム隆起の海底の地形に独自の名称を国際水路機関(IHO)に提案するなど、実効支配の強化を着々と進めている。フィリピン政府はこの名称は認められないとして中国に抗議し、IHOに懸念を示した。しかし、バトンバカル教授によると、中国の提案は2014年ごろから始まって、すでに承認プロセスは完了しており、覆すのは困難だろうと分析。「抗議が遅すぎる」と政府の対応を改めて批判した。
ドゥテルテ大統領は19日に参加した中国ビジネスクラブのイベントで、「もし望むならフィリピンは中国の省になってもいい」「中華人民共和国フィリピン省」などとリップサービスを披露。さらに、軍事拠点化している南シナ海の人工島に関して言及し、「米国に対抗するためのものだ」と述べ、フィリピンの脅威にはならないとの見解を示した。イベントには中国大使も出席していた。