比、泥沼化する麻薬戦争
ドゥテルテ大統領が主導する麻薬戦争が激化するフィリピンで、警官による未成年者の殺害が相次ぎ、人権団体などから強い非難が向けらている。殺害されたのはいずれも10代の少年たち。麻薬取引や強盗などの容疑で警官に逮捕され、無抵抗の状態で殺害された可能性が高まっている。さらにドゥテルテ氏の息子に麻薬取り引き疑惑が浮上するなど、終わりの見えない麻薬戦争は泥沼化の様相を呈している。
(マニラ・福島純一)
警官による未成年者殺害相次ぐ
大統領府は妨害工作と反論
先月中旬にマニラ首都圏とその近郊で、警察による麻薬摘発が一斉に行われ、2日間で少なくとも57人が逮捕に抵抗するなどして警官に射殺された。殺害された容疑者の中には17歳の少年が含まれており、逮捕に抵抗し銃を発砲してきたため反撃するかたちで射殺したと警官は主張していた。しかし防犯カメラの映像には、少年が複数の警官に拘束されて連行される様子が記録されており、目撃者も少年が無抵抗だったと証言。検死の結果、少年がうつ伏せの状態で射殺されたことが分かり、銃を発砲した際の硝煙反応も出なかったため、超法規的殺人の可能性が高まった。少年の葬儀には数千人が参列し、麻薬戦争と超法規的殺人に反対する抗議デモと化した。
さらにこの数日後にも、マニラ首都圏で19歳の少年がタクシー強盗の疑いで警官に射殺された。この事件も注目を集め、各機関が入念な検死を行った結果、警官が主張する事件現場が捏造(ねつぞう)で、別の場所で殺害された可能性が浮上した。一時行方不明となっていた被害者のタクシー運転手が人権団体に伴われてメディアの前に姿を現し、強盗は事実だが未遂に終わり、群衆に捕まった少年が暴行を加えられたと説明。運転手はそれを制止して少年をタクシーに乗せ、警察署に引き渡したところ警官が少年を射殺したと証言した。さらにこの少年と行動を共にしていた14歳の少年も、ヌエバエシハ州の川に遺棄されているのが発見された。遺体は30カ所以上を刃物で刺され、顔はテープでグルグル巻きにされていた。
アベリャ大統領報道官は「少年の死は警鐘だ」と述べ、政府機関の改革の必要性を指摘し政府の落ち度を認めたが、麻薬戦争は続けなければならないと国民に訴えた。しかしその一方で、一連の少年殺害が、麻薬戦争を妨害するための麻薬組織による妨害工作である可能性もあると指摘した。
ドゥテルテ氏は「有罪が立証されれば警官であろうと刑務に送る」と述べ、警官による超法規的殺人を容認する方針は一切ないことを改めて強調。殺害された少年の両親と大統領府で面会し、迅速な真実の解明を約束した。
依然として80%以上という高い支持率を維持しているドゥテルテ大統領。しかし当初6カ月で終わらせると豪語していた麻薬戦争は延期を重ね、強権的な犯罪対策の影響を受けた警官の暴走を招き、弱い立場にある少年を犠牲しながら泥沼化の様相を呈している。
7日にはドゥテルテ氏の息子でダバオ副市長のパオロ・ドゥテルテ氏が、関税局が絡む巨額の覚醒剤密輸事件に関与した疑惑をめぐって、上院議会の公聴会に招聘(しょうへい)されている。ドゥテルテ副市長は、麻薬組織の一員で密輸をほう助しているという疑惑を否定しているが、大統領の息子ですら疑いを掛けられる現状が、フィリピンの麻薬汚染の根深さを印象付けている。