比への浸透図るIS
イスラム過激派が要所を占拠
フィリピンのドゥテルテ大統領が、南部ミンダナオ島に戒厳令を布告した。「イスラム国」(IS)に忠誠を誓うイスラム過激派が同島の都市部に侵入し、学校や刑務所などを占拠して建物に放火するなどの破壊行為を繰り返し、治安情勢が急速に悪化したためだ。(マニラ・福島純一)
ドゥテルテ大統領、南部ミンダナオ島に戒厳令
共産勢力との和平にも影響
先月23日、南ラナオ州の州都マラウィ市をイスラム過激派マウテグループが占拠。制圧作戦を展開する治安部隊との交戦が続き、これまでに死者は104人に達している。政府当局によると先月30日までに市民19人のほか、兵士17人と警官3人が死亡。過激派側も少なくとも65人が死亡した。
国軍は先月31日の時点で市内の90%を制圧したと発表したが、依然として散発的な戦闘が続いており、市の人口の9割に達する20万人以上が避難を強いられ、市内はゴーストタウンと化している。教会関係者や一般市民が、過激派に人質として拉致されているとの情報もあり、治安当局が確認と救出を急いでいる。
マウテグループはISに忠誠を誓うイスラム過激派の一つで、南部で外国人誘拐を繰り返しているアブサヤフとも同盟関係にあり、昨年9月に14人が死亡したダバオ市での爆弾テロへの関与が指摘されている。ISに忠誠を示してから急速に活発化し、拠点となっている同島中部で国軍との衝突を繰り返していた。
これまで死亡が確認されたマウテグループの構成員には、ISに忠誠を誓う複数のインドネシア人やマレーシア人が含まれていることも分かっており、ISがアジア地域における活動拠点としてフィリピンへの浸透を図っている実態も浮き彫りとなっている。
これまで治安当局は、ISの具体的は脅威はないとの見解を繰り返してきたが、今回の戒厳令は国内にISの脅威が及んでいることを認めたことになる。
戒厳令は60日間の限定だが、ドゥテルテ氏は24日、ロシアから帰国後の記者会見で、戒厳令を全土に拡大する可能性を示唆した。ドゥテルテ氏は治安当局に対し、戒厳令下にあるミンダナオ島周辺の海上警備の強化を命じたことを明らかにする一方で、これを越えてフィリピン中部や首都が位置するルソン島にまで、過激派の攻撃が及ぶ可能性があると指摘。もしそうなれば、戒厳令を全土に発令することを躊躇(ちゅうちょ)しないと語った。
戒厳令が布告された地域は軍の統制下に置かれ、令状なしで身柄の拘束や家宅捜索が可能となる。戒厳令をめぐっては、マルコス独裁政権が反対派の弾圧に利用したこともあり、国民の間でも賛否が分かれている。
政府は30日、各国の大使館関係者を招いた説明会で、戒厳令下でも人権が尊重されることを強調したが、ドゥテルテ氏は戒厳令を1年間に延長する可能性を示唆しており、麻薬戦争をめぐる超法規殺人で批判が高まる人権問題への懸念が、さらに強まる可能性もありそうだ。
また戒厳令の布告は、共産勢力との和平交渉にも深刻な影響を及ぼしている。戒厳令に強く反発するフィリピン共産党は、軍事部門の新人民軍(NPA)に対し、各地での攻勢強化を命じた。これを受け政府は和平交渉を一時停止することを決定した。政府は戒厳令が共産勢力に対するものではないと説明し、NPAにミンダナオ島の混乱を悪化させないよう求めている。
政府は戒厳令を布告したことで、期限内に具体的な成果が求められることになり、今後イスラム過激派との戦闘がより激化することが予測される。それにより過激派による報復や陽動を目的としたテロが各地で発生することも考えられ、首都圏でも治安が悪化する危険もはらんでいる。