ドゥテルテ比大統領の麻薬戦争
「二重基準」との批判高まる
フィリピンのドゥテルテ大統領が推進する麻薬戦争で、警官が関与する超法規的殺人疑惑が浮上し大きな波紋を呼んでいる。疑惑への関与で停職処分となった警官をドゥテルテ氏が鶴の一声で復帰させていたことも明らかとなり、麻薬戦争における「ダブルスタンダード(二重基準)」だとの批判も高まっている。(マニラ・福島純一)
警官が口封じで町長殺害?
疑惑の人物を復職させ物議
国家捜査局(NBI)はこのほど、先月にレイテ州アルブエラ町の拘置所で、麻薬容疑者のエスピノサ町長が警官に射殺された事件に関して、警察による超法規的殺人の可能性が高いとの結論を下し、関与したマルコス警視正とその部下の警官など27人を殺人や偽証などの容疑で起訴する方針を固めた。
マルコス警視正は先月5日に、エスピノサ町長と別の容疑者が拳銃と麻薬を所持しているとの情報を得て、部下の警官と共に拘置所を急襲。その際にエスピノサ町長が銃を発砲して抵抗したため射殺したと主張していた。しかし、拘置所内でどうやって拳銃と麻薬を入手したのかなど不自然な点も多く指摘されていた。
これに関してNBIは、急襲の根拠となった証言者が、当時拘置所を訪れていなかったことを突き止め、マルコス警視正による組織的かつ計画的な殺害と結論付けた。
エスピノサ町長の殺害をめぐっては、当初から麻薬取引に関与していた警官が、彼の証言を恐れて口封じのために殺害したとの見方があった。
またマルコス警視正の処分をめぐるドゥテルテ氏の対応にも批判が集まっている。NBIの発表より先に、マルコス警視正はデラロサ国家警察長官の判断で停職処分となっていたが、ドゥテルテ氏がこれを撤回させ職場に復帰させたのだ。
ドゥテルテ氏は「たとえNBIが殺人だと言っても、マルコス警視正と警官たちを刑務所には送らせない」と、エスピノサ町長の暗殺を正当化するような発言で物議を醸した。
この対応に対し上院議員からも批判の声が高まっている。元国家警察長官のラクソン上院議員は、「たとえ警察高官であっても麻薬に関与した者は容赦しないという、ドゥテルテ氏が主張する麻薬戦争に矛盾が生じた」と指摘し、ドゥテルテ氏の対応を「ダブルスタンダード」と強く批判した。
一方、エリチェ下院議員は、「マルコス警視正の復職は誤ったシグナルだ」と指摘。このような行為を容認すれば、警察組織が「怪物化」し麻薬戦争は失敗に終わると警鐘を鳴らした。
ほかにもマルコス警視正は、彼の部下の警官が正体不明の男に銃撃されて死亡した事件への関与も指摘されている。殺害された警官の妻は上院の公聴会で、エスピノサ町長の殺害を50万ペソ(約115万円)でマルコス警視正に持ち掛けられたが、これを断ったために殺害されたと証言している。
ドゥテルテ大統領が推進する麻薬戦争をめぐっては、処刑団を使った超法規的殺人への関与がダバオ市長時代から指摘され続けてきた。しかし、上院の調査委員会はこのほど、証拠不足を理由にドゥテルテ政権の超法規的殺人への関与は認められないとの結論に達した。その一方で、ドゥテルテ氏の発言が誤解を生んでいると指摘し、大統領にふさわしい模範的な言葉遣いを求めた。
今後の調査でマルコス警視正の麻薬取引への関与が明らかとなれば、麻薬戦争と汚職撲滅で国民の高い信頼を得ているドゥテルテ政権にとって、大きな打撃となる可能性もありそうだ。






