アジアで高まるテロの脅威
今年7月、バングラデシュで日本人7人を含む20人が殺害されるテロ事件が起きた。このバングラショックは大きく、国際協力機構(JICA)では安全管理室を部に昇格させた。アジアでもイスラム過激派によるテロの脅威が高まっている。(池永達夫)
ISに近づくイスラム過激派
日本の安全にも直結
アジアでは近年、過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓うグループが続出。年初にはインドネシアで、ISに参加した容疑者が主導した自爆テロが発生、30人以上が死傷した。バングラのテロ事件でも、一部容疑者はISと関係しているとされる。
世界最大のイスラム人口を擁するインドネシアでは、ISの過激思想に染まる若者が増加。シンガポールのテロ研究所によると、700人以上がISの戦闘員としてイラクやシリアに渡っているという。
ただ基本的にインドネシアのイスラム教徒は穏健で、暴力を肯定する過激派はごく一部だ。しかも、ISをめぐり内部で割れてもいる。
しかし、親ISグループは、フィリピンやマレーシアにもネットワークを広げ、より大きなテロを企てていると指摘する専門家もいる。
こうしたインドネシアのイスラム過激派に近寄ったメンバーが、フィリピンのミンダナオ島に密入国し訓練を受けてくるケースも絶えない。フィリピン南部を拠点にモロ族の自治確立とイスラム国家建設を目的として比政府と戦う「モロ・イスラム解放戦線」(MILF)に加わって、実戦経験を積むのだ。
なおISは既にフィリピン南部に軍事訓練拠点を構築したとの情報もある。昨年末、訓練の様子を撮った動画がネットで公開された。ISの旗を掲げた黒ずくめの男が銃を構え、壁をよじ登ったり、有刺鉄線の下を¥ルビ(¥ルビサイズ(4.5P)匍匐,ほふく,,,0.10mm,0,しない)前進したりしているものだ。地元の過激派組織「アブサヤフ」などは既にISへの支持を表明している。
インドネシア同様、イスラム教の国家マレーシアでは6月28日、首都クアラルンプール郊外でISが関与したとされる爆発事件が発生し8人が負傷した。マレーシアでは2013年以降、120人以上がISに関与した疑いなどで逮捕されている。
昨年4月には、クアラルンプールでテロを計画したとして、ISとの関わりが疑われる男10人以上が逮捕された。ISにはインドネシア人とマレーシア人の混成部隊があるとされる。
ミャンマーでは西部ラカイン州で仏教徒とベンガル系イスラム教徒(ロヒンギャ)が対立し、12年には武力衝突した。昨年にはマレーシアを目指す多数のボートピープルが漂流して国際問題にもなった。タイ南部にいるロヒンギャ難民は今年、ミャンマーへ強制送還され始めている。こうした不安と不満を抱えるロヒンギャの間にISが浸透する懸念もある。
東南アジアのイスラム過激派の動きをフォローしている東洋英和女学院大学の河野毅教授は先月28日、日本インドネシア協会の会合で講演し「東南アジアのテロの激しさではミンダナオ島が中心地域となる。次はタイ南部だ」と述べ、分離主義運動から派生した歴史を持つイスラム勢力の政治的解決が必要と総括した。インドネシアとマレーシアではイスラム教徒はマジョリティーだが、フィリピンやタイではマイノリティーで不満が鬱積しているからだ。
さらに河野教授は「一般社会から疎外されていると感じ、過激主義に正義を求めるイスラム過激派シンパは、イスラムの大義を表看板に使い屈辱を晴らし反撃に出るメッセージを巧みに使ってテロ実行の説得を試みるだろうが、欧米で発生しているような呼応型ジハードは東南アジアではまだ確認されていない」と語った。
今年5月、日本で開催された主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では、テロと過激派対策に対する行動計画を採択。日本はアジアのテロ対策を主導することになった。
観光庁は16年の訪日外国人観光客が先月30日に2000万人を超えたと発表した。マレーシアやインドネシアなどイスラム教徒が多い国からの観光客も増えている。それに紛れ込んだイスラム過激派がアジアから日本に入る可能性は否定できない。20年に東京五輪を控える日本としても、アジア各国の水際対策を支援する必要があるゆえんだ。
アジアのテロ脅威の深刻化は、日本の安全にも直結する。とりわけイラクのモスルが陥落するなどISの拠点が狭まってくると、実戦経験を積んだ東南アジア出身のIS戦闘員が帰国を余儀なくさせられるケースも予測されることから注意を要する。











