ドゥテルテ比大統領、中国との2国間協議実現に集中
来月のラオスで行われる東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議を前に、フィリピンのドゥテルテ大統領は南シナ海問題をめぐり、中国との2国間協議の早期実現を目指す方針を示した。ASEAN首脳会議では、南シナ海問題を提起しないと明言し中国に配慮を示す一方、同海域におけるフィリピン人漁師への妨害活動をやめるよう求めるなど、フィリピンの国益保護では妥協しない構えも見せている。
(マニラ・福島純一)
来月開催のASEAN首脳会議、「南シナ海」提起せずと明言
一方で侵略続ければ「血を見る」と牽制も
ドゥテルテ大統領は25日の記者会見で、「ラオスでこの問題は避けるつもりだ」と述べ、ASEAN首脳会議で南シナ海問題を提起しないと明言し、あくまでも中国との2国間交渉で解決を図る方針を改めて強調した。しかしその一方で、「ほかの国が提起すれば議論には加わる」とも述べ、日米などの同盟国への配慮も見せた。
ドゥテルテ氏は、オランダ・ハーグの仲裁裁判所がフィリピンの主張を全面的に認める判断を下してから、アキノ前政権が進めていた多国間協議から、中国が求める2国間協議へと方針を切り替えた。すでに8日には、中国高官と人脈があるラモス元大統領を特使として香港に送り出すなど、2国間協議に向けた地ならしを急いでおり、ドゥテルテ氏は年内の協議実現を目指すと明言している。
これまで中国への刺激を避ける配慮ばかりが目立つドゥテルテ政権だが、2国間協議ではハーグの仲裁裁判所の判断を前提に行うことを明確にしており、判断を無効と主張する中国との対立は避けられそうにない。ドゥテルテ氏はハーグの仲裁裁判所の判断をアキノ前政権から受け取った「切り札」だと述べるなど、交渉では妥協しない構えだ。どのように駆け引きを図るのかに注目が集まる。
24日に国軍基地で行った演説でドゥテルテ氏は、「中国がわれわれに誠意を持って対応することを希望する」「彼らがそれを好むかどうかにかかわらず、フィリピンだけでなく東南アジアの国々が仲裁裁判所の判断を迫るだろう」と、ハーグの仲裁裁判所の判断を無視する中国を批判。さらに、「もし中国がフィリピンを侵略すれば血を見ることになる」「簡単に領土を渡すわけにはいかない」と述べ、2国間対話を呼び掛ける一方で、人工島に滑走路を建設するなど急ピッチで実効支配を強めている中国を強く牽制した。
仲裁裁判所の判断を受けドゥテルテ氏は、せめてフィリピン人漁師が活動できるよう中国に誠意を求めたが、依然として巡視船に阻まれ実現していない状況にある。このまま中国が強硬な姿勢を崩さず譲歩しなかった場合、アキノ前政権のような強硬姿勢に転じ、日本や米国などの同盟国と共闘した多国間協議に切り替える可能性もありそうだ。
フィリピン南部で活動するイスラム過激派のアブサヤフをめぐっては、当初、ほかのイスラム勢力と同じように対話姿勢を打ち出していたが、ドゥテルテ氏の要請に応じず人質の外国人を殺害し始めると、一転して対決姿勢を打ち出し、治安当局に掃討を命じている。このように素早い方針転換もドゥテルテ大統領の大きな特色となっており、中国との2国間協議に早々に見切りをつけることも考えられる。
18日には日本政府が供与した巡視船「BRPトゥバタハ」がマニラ港に到着し、フィリピン沿岸警備隊に引き渡された。日本政府はフィリピンに10隻の巡視船を供与する計画で、全長44メートルのBRPトゥバタハはその最初の1隻となる。2018年までに残りの巡視船も引き渡される見通し。日本政府は南シナ海問題をめぐり、フィリピン政府と法の支配による平和的な紛争の解決で一致しており、中国の領海侵入に対応できるような大型巡視船の供与も検討している。






