比大統領選、最高裁がポー氏出馬認める

有力4候補の支持率拮抗

 フィリピン中央選管から失格と判断されていた次期大統領選の有力候補、グレース・ポー上院議員の出馬資格をめぐる裁判で、最高裁はこのほど、中央選管の決定を覆し、同氏に出馬を認める判断を下した。支持率トップを維持する同氏にさらに追い風が吹いた格好だが、有力候補4人の支持率はかなり拮抗(きっこう)しており混戦模様となっている。次期政権に持ち越しが確定的となっているミンダナオ和平の扱いも、選挙の争点になりそうだ。(マニラ・福島純一)

イスラム和平問題、次期政権で方針変更も

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サマル州を遊説する大統領候補のグレース・ポー氏(ポー氏の公式フェイスブックから)

 問題となっていたのはポー氏の生い立ちと国籍問題。ポー氏は教会の前に捨てられていた孤児だったことから、両親の国籍が分からず「生まれながらのフィリピン人」であるかどうか不明ということと、さらに一時米国籍を取得して海外で生活しており、候補者資格の条件となっている国内での居住10年という条件が満たされていない可能性が指摘されていた。

 今回の最高裁の判決で、ポー氏が抱えていた問題が解消されたこととなり、これを追い風にさらに支持率を伸ばすことは必至とみられている。民間調査会社のパルスアジアが9日に発表した世論調査の結果によると、ポー氏が26%でトップを維持。これにビナイ副大統領が24%で続き、ダバオ市長のドゥテルテ氏は22%、与党候補のロハス前内務自治相は19%という、かなり拮抗した結果となっている。この世論調査は最高裁の判決が下される前に行われたもので、次の調査ではポー氏がさらに支持率を伸ばすとの見方も強まっている。

 ポー氏は国民的な映画俳優の故フェルナンド・ポー・ジュニア氏に養女として迎えられ、父親の絶大な人気を背景に、政治経験なくして上院選でトップ当選を果たした。父親は2004年に大統領選に出馬したが、アロヨ前大統領と当選を競って敗北。その後、間もなく病死しており、ポー氏にとって今回の大統領選は、父親の悲願を達成する弔い合戦でもある。このようなドラマが国民の人気を集める一因となっているだけでなく、一見不利に見える政治経験の浅さも、汚職がはびこる政界をよく知る有権者にとっては、腐敗していないことの象徴でもあり利点と捉えられているようだ。

 ビナイ氏は市長としてマカティ市を国内有数の金融都市に育てた実績が評価される一方、大統領選に出馬を表明してからは、市長時代に庁舎建設で予算の水増しを行っていた疑惑が浮上。圧倒的だった支持率に影を落とす結果となった。政治的な手腕を評価する国民が多いが、汚職にも手を染める典型的な政治家というイメージが強いようだ。

 ドゥテルテ氏はダバオ市の治安を改善し、国内有数の安全な都市にした実績で有名だが、超法規的な暗殺集団を使って犯罪者を処刑したとされており、人権団体から批判を受けている。しかし、その豪腕を使ってフィリピンの治安を改善してほしいと期待する国民はやはり多く、ドゥテルテ氏は当選した暁には3年で犯罪を劇的に減らすと豪語し、失敗した場合には辞任すると言い放っている。

 国民の満足度が高いアキノ大統領の後継候補であるロハス氏の支持率が低迷しているのは、台風災害の復興責任者として対応の遅れを非難されたり、内務自治省長官として44人の警官特殊部隊が死亡したイスラム勢力との戦闘の責任を問われたりと、政権内で損な役回りが多かったことが一因のようだ。しかし時間とともにジワジワと支持率を上げており、豊富な政治経験と与党の強みを生かしてこれから巻き返す可能性もある。

 一方、次期政権への先送りが確実視されている国内最大のイスラム反政府勢力、モロ・イスラム解放戦線(MILF)との和平プロセスをめぐっては、与党候補のロハス氏以外は、何らかの見直しが必要との姿勢を打ち出している。ポー氏は、現状のバンサモロ基本案に関して「フィリピン内に別の国家が設立される」と懸念を表明し、新しい合意が必要と主張。ビナイ氏は、バンサモロ基本法案が「和平の唯一の選択肢だとは思わない」と否定的な見解を示し、新しい道を模索する可能性を示しており、MILFの反発を招く可能性もある。ドゥテルテ氏はミンダナオ島を拠点としているだけあり、既にMILFやモロ民族解放戦線(MNLF)の指導者と顔を合わせるなど、和平問題に関して最も積極的に動いており、大統領の候補の中では唯一、連邦制への移行によって和平を達成する方針を示している。

 MILF和平をめぐっては日本政府もアキノ政権下で積極的な支援を行ってきたが、大統領選の結果によっては何らかの変更を迫られる可能性も出てきそうだ。