比 コロナ対策で方向転換、機能しなくなった都市封鎖


10日間で規則違反7万人逮捕

 フィリピン政府が新型コロナウイルス対策で、方向転換の兆しを見せている。これまでは警察や国軍を動員した厳格なロックダウン(都市封鎖)に頼ってきたが、このほど感染者増加中にもかかわらず規制緩和に舵(かじ)を切った。しかしマニラ首都圏では感染者数が高止まりし、医療施設の逼迫(ひっぱく)が続いており、今後どのように新型コロナと対峙(たいじ)していくのか具体的な対策が課題となる。
(マニラ・福島純一)

[新型コロナ]

日本がフィリピンに供与する新型コロナウイルスワクチンが入った保冷コンテナ=7月8日、千葉・成田空港

 政府は新型コロナ感染者増加を受け、8月6~20日まで、マニラ首都圏を最も厳しいロックダウン下に置くことを決定した。このロックダウンでは、食料品店や医療関係など必須の業種以外は閉鎖され、許可された仕事に行く人以外の住人は、原則外出禁止となる厳しい措置だ。また午後8時から午前4時までは夜間外出禁止となった。

 ロックダウンに突入した直後から、感染者数は1日1万人を突破するなど過去最多の水準で推移し、23日には約1万8000人に達し過去最多を記録。各地の主要病院が相次いで満床を宣言するなど、医療施設の逼迫が深刻化した。

 しかし、政府は感染者数が高止まりする中、21日から現行のロックダウンよりも一段階低い防疫分類への規制緩和に踏み切った。大統領府のロケ報道官は、「感染者が増加し死者も増えているため厳格なロックダウンを継続すべき」という方針と、「すでにロックダウンは機能していないので新たな戦術に変更すべき」という方針で、政府内に対立があったことを明らかにし、投票の結果で規制緩和に決まったことを公表した。

フィリピン

 

 また政府内では、2年間にわたる断続的なロックダウンに国民が疲れていると指摘する声もあったという。実際、今回のロックダウンの最初の10日間で検疫規則に違反したとして、マニラ首都圏だけで7万人以上が逮捕されるなど、以前のような緊張感がなくなっている実態も浮き彫りとなっている。

 また最も厳しいロックダウンでは、州境に警察による検問が設けられ、許可のない通行が禁止されるため、通勤などの人の流れや物流が滞り経済に大きな影響を及ぼす。ロックダウン中は生鮮食品が値上がりするのが常で、庶民の生活をさらに圧迫するという悪循環が生まれる。

 さらにロックダウン中は、多くの事業が強制閉鎖されるため、政府が該当地域の住人に現金支援をしなければならず、財政的にこれ以上ロックダウンを続けられないという事情もある。現金支援は2週間のロックダウンで、1人当たり1000ペソ(約2200円)程度で、1世帯4000ペソほどとなっている。独自に食料を配布する自治体もある。

 労働雇用省は、今回の2週間のロックダウンにより、マニラ首都圏だけで少なくとも16万7000人が仕事を失ったと推定した。

 今のところ政府は、ワクチン接種を進める以外に、これまで続けてきたロックダウンを伴う感染ゼロ戦略を断念するかどうかなど、具体的な方向性はまだ示していない。

 しかし大統領府のロケ報道官は、「ワクチン接種が進めば、新型コロナウイルスは『普通の風邪』になる」との見方を示し、そうなれば病床を圧迫することもなくなり、大規模なロックダウンは今回で最後になるとの見解を示した。

 フィリピンでは3月からワクチン接種が開始されており、感染者が集中するマニラ首都圏では、集団免疫の獲得に必要な総人口の70%(980万人)の接種対象者のうち、43%に当たる約420万人が2回の接種を完了している状況だ。政府はロックダウン中もワクチン接種は続ける方針を示し、年末までに集団免疫の獲得を目指すとしている。