新型コロナワクチン 接種急ぐ比大統領

 フィリピンで低迷する新型コロナウイルス用ワクチンの接種率に、ドゥテルテ大統領の焦りが表面化した。ドゥテルテ氏は、ワクチン接種を拒否すれば逮捕も辞さない構えを見せ、国民に積極的にワクチン接種を受けるよう強く警告を発した。しかしワクチン接種を希望する国民は3割程度しかなく、政府が目標としている集団免疫の獲得は早くも難航が予測されている。
(マニラ・福島純一)

「拒否なら刑務所送り」
2回接種率2%の低さに憤り

 ドゥテルテ氏は21日に行われた演説で、自治体の責任者にワクチン接種を拒否した住民のリストを作成させる方針を示し、「ワクチン接種を受けるか、逮捕されて刑務所に入るか選択してください」と国民に警告を発した。また「接種を受けない人はフィリピンを去って、アメリカやインドにでも行くといい」と述べ、国外追放も辞さない構えを示した。

フィリピンのドゥテルテ大統領=2019年11月、マニラ(AFP時事)

フィリピンのドゥテルテ大統領=2019年11月、マニラ(AFP時事)

 3月から本格的に始まったワクチン接種キャンペーンだが、21日の時点で2回の接種が完了した国民は約200万人程度にとどまっている。これは人口の2%にすぎず、年内に70%を完了し集団免疫を獲得する政府の目標からは程遠い進行状況だ。この目標を達成するには1日に50万人の接種が必要だが、現状では20万人程度となっており、これがドゥテルテ氏の「憤り」につながっていると考えられる。

 ドゥテルテ氏の過激発言に対しゲバラ司法長官は、「ワクチン接種の拒否は犯罪ではなく、接種も法律で義務化されていない」と述べ、逮捕の法的根拠はないと説明。さらに「大統領は弁護士でもあり、ワクチン接種を受けない法的な権利があることを知っている」とした上で、「大統領は集団免疫の必要性を訴えるために強い言葉を使ったにすぎない」と述べ、火消しに追われた。

 このところ感染対策をめぐっては迷走が続いており、フェイスシールドの着用義務に関しても、一度はドゥテルテ氏が「病院以外の場では不要」と判断したとの見解が伝えられ、多くの国民が開放感に包まれた。しかし保健省を中心に反対意見が噴出し、一転して装着義務の継続が発表されるなど混乱が広がった。

 民間調査会社のソーシャル・ウェザーステーションが5月に発表した新型コロナ用のワクチン接種に関する世論調査で、成人の32%のみが接種を希望。一方、受けたくないとの返答は33%と、希望する人数をわずかに上回った。35%はまだ考え中となっており、接種に積極的でない国民が圧倒的に多い状況にある。

 接種希望者が少ない背景には、過去に政府が行ったデング熱ワクチン接種で副作用が判明し、接種が中止になったことによる不信感や、接種の中心となっている中国製ワクチンへの不安があるとみられている。

 フィリピンでは昨年3月にロックダウンが始まってから1年以上にわたって、学校での対面授業は禁止され遠隔授業のみとなっている。ドゥテルテ氏は学校での授業に関し、ワクチンが大半の国民に行き渡るまでは再開しないとの考えを示すなど、集団免疫の獲得を念頭に規制緩和を進める方針を示している。

 ワクチンの輸入状況をめぐっては、一時は供給不足の懸念もあったが、現在は中国製やロシア製を中心に供給は安定してきている。さらに米国政府がフィリピン向けに100万回分のワクチンの寄付を決定したほか、日本政府も数は不明ながら、アストラゼネカ製ワクチンの寄付を行うと発表している。

 フィリピンの感染者数は、4月に1日1万人を超える日が続いたが、6月に入り5000人前後まで減少。医療施設の逼迫(ひっぱく)も落ち着き、政府は再び規制緩和と経済の立て直しに舵(かじ)を切り始めている。政府の接種目標達成には、新型コロナワクチンの安全性を国民に認知させる積極的な啓蒙(けいもう)活動がカギとなりそうだ。