新型コロナで比ルソン島封鎖
交通機関停止、人の移動制限
フィリピンのドゥテルテ大統領は16日、新型コロナウイルス対策でマニラ首都圏で実施していた封鎖措置をルソン島全域に拡大すると発表した。人の移動を制限しウイルスの拡散を防止する目的だが、公共交通機関を完全に停止するという強硬策に、市民生活や経済に混乱も広がっている。
(マニラ・福島純一)
大統領「生き残るための戦い
今回の封鎖措置は地域をルソン島全域に拡大しただけでなく、マニラ首都圏の閉鎖では見送られていた公共交通機関の停止を実施し、人の移動を物理的に制限するという、さらに踏み込んだ内容だ。地域の拡大により封鎖の対象となる市民は、マニラ首都圏の約1300万人から、ルソン島全域の5700万人に膨れ上がった。
閉鎖措置の期間は17日から4月12日まで。
当初は封鎖をマニラ首都圏に限定していたが、周辺地域との境界に設置した検問に首都圏に向かう通勤者が殺到。体温チェックや移動目的地の確認が追いつかず大渋滞が発生するなど混乱が広がり、政府は封鎖地域の拡大と公共交通機関の停止という方針変更に踏み切った。
商業活動は食品や生活必需品の製造と流通、電力や水道など生活インフラの維持などの最低限が認められ、映画館やショッピングモールなどの娯楽施設はすべて閉鎖。食料や生活必需品を販売するスーパーや薬局などの店舗が営業を認められる。
ドゥテルテ大統領は声明で、今回の封鎖措置を「生き残るための戦い」と説明し、国民に外出制限の徹底を求めた。政府はこの封鎖を「強化されたコミュニティー隔離」と呼んでおり、ミンダナオ島でイスラム過激派対策で宣言された戒厳令とは違うと強調している。
各自治体の境界には警察や国軍による検問が設けられ、人の移動は厳しく制限されている。移動が認められるのは医療関係者や一部の政府職員、生活必需品を運ぶ物流関係者に限られる。またスーパーやコンビニなど営業の必要がある店舗の従業員は、雇用者が発行する雇用証明書や身分証を提示することで移動が認められる。
公共交通機関の停止はバスや鉄道、タクシー、ジプニーのほか配車サービスのグラブ(Grab)も対象となっている。さらにルソン島にある空港からの国内便の発着も禁止され、ルソン島とそれ以外の地域は完全に隔離される。
市民は自宅での自主的な隔離を求められ、食料や生活必需品を購入する場合のみ外出が認められる。移動は基本的に徒歩か、個人所有の自動車やバイクなどに限られる。これにより人の移動は大幅に制限されウイルスの拡散は抑えられるが、移動手段がなく近所に食料品店などがない市民は、大きな不便を強いられることになる。
封鎖の大きな問題の一つは、職場の閉鎖や交通機関の停止による通勤問題によって、収入を絶たれる労働者が大量に出ることだ。
政府は企業に対し従業員への救援策として、年末に支払われるボーナスの前倒しを求めている。しかし、これは正式に雇用されている社員が対象で、日雇い労働者や自営業者、交通機関停止の直撃を受けるタクシーやジプニーの運転手は含まれない。
政府は社会福祉開発省による食料配布など、封鎖の影響を受けた国民への支援を約束している。しかし、どの程度の規模で行われるかは不透明で、国民の不安の払拭(ふっしょく)には至っていない。
今後、閉鎖が長く続くことで経済状態が悪化し、国民の政府への不満が急速に高まる恐れもある。政府には新型コロナウイルス問題の収束と同時に、封鎖の影響を受けた国民に対する十分な支援策が求められそうだ。フィリピン保健省によると、18日までの国内感染者は202人で、死者は17人となっている。






