民主は1強状態 クリントン氏に懸念も
2016年米大統領選まで1年(中)
「クリントン氏の指名獲得が見えてきた」
先月22日に開かれたリビア・ベンガジ米領事館襲撃事件に関する下院特別委員会公聴会の翌日。米メディアは、ヒラリー・クリントン前国務長官(68)が正念場だった公聴会を無難に乗り切ったことで、民主党の指名をほぼ手中に収めたと、こぞって報じた。
クリントン氏は、同13日の民主党候補による討論会でも高評価を受けた。同時期にジョゼフ・バイデン副大統領の不出馬表明も重なったことから、10月中旬は「クリントン氏にとって素晴らしい10日間になった」(米紙ワシントン・タイムズ)との声が相次いだ。
一方、自らを「民主社会主義者」と称するバーニー・サンダース上院議員(74)は民主党内で一定の支持を集めるものの、左派傾向が強すぎるため「(これ以上の)支持拡大は難しい」(アメリカン大学のアラン・リクトマン教授)とみられている。
NBCテレビと米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが10月下旬に行った世論調査によると、クリントン氏の党内支持率は62%で、2位サンダース氏の31%と30ポイント以上の開きがあり、独走態勢に入っている。
ただ、党内では1強状態のクリントン氏も、本選で共和党候補と戦うにはいくつかの懸念材料を抱えている。
一番の懸念は、国務長官在任中に公務で私用メールを使っていた問題だ。当初、クリントン氏は「問題ない」と強調していたが、多くの機密情報をやりとりしていたことが発覚し、好感度が低下。最後は「間違いだった。申し訳ない」と謝罪に追い込まれるなど、誤算が続いた。
キニピアック大学が今月4日発表した世論調査結果では、クリントン氏を「正直で、信頼できる」とする人の割合は36%だった。逆に「正直ではなく、信頼できない」は60%で、有権者の信頼を取り戻せていない現状が改めて浮き彫りになった。
2008年大統領選の候補指名争いでは、クリントン氏の攻撃的な姿勢や態度が有権者の反感を買ったことが、オバマ氏に敗れた一因とも言われている。今回は高圧的な態度を控えるなど細心の注意を払っているが、本選で勝つには悪化したイメージをいかに払拭できるかが、カギになる。
また、一時追い上げられたサンダース氏から党内の支持を取り戻すため、金融市場の規制を進める方針を示したり、連邦最低賃金の大幅な引き上げを明言するなど、党内左派を意識した政策を多く打ち出したことも、中間層の支持離れを招く可能性がある。
賛成の意向を示していた環太平洋経済連携協定(TPP)についても「雇用は増えず、賃金の上昇にもならない」とし、一転して反対を表明したが、「主張に一貫性がない」(サンダース氏)との批判を集めた。
本選を見据えて、今後はリベラル色を薄めていくとみられるが、ブレが続くと有権者の不信感を増幅させることにもなりかねない。
連邦捜査局(FBI)が調査を続ける「メール問題」の見通しも不透明で、気を抜けない戦いを強いられそうだ。
(ワシントン・岩城喜之)






