施政方針演説、総花的で安倍カラーを抑制


 安倍晋三首相が施政方針演説を行った。安倍首相にとっては過去最長の演説となったが、主要項目を羅列した総花的な印象は否めない。安倍カラーを不必要に抑制した感がある。政権任期の最終コーナーに差し掛かってはいるが、息切れして憲法改正など骨太の改革への挑戦を後退させてはならない。

「国難」に対処できるか

 首相は冒頭、天皇皇后両陛下の被災地御訪問のエピソードを紹介。「被災地の現場には必ず天皇、皇后両陛下のお姿があった」と語った。皇位継承についても「国民こぞってことほぐことができるよう万全の準備を進める」との姿勢は多くの国民の共感を得るものだろう。

 しかし、それに続く項目は、全世代型社会保障(1億総活躍)、デフレマインドの払拭(ふっしょく)、地方創生などだったが、これらはすべて過去の国会で掲げたもので目新しいものはない。総仕上げの段階に入った政権が訴えるべきは、これらの成果であり見通しのはずである。

 昨年の施政方針で首相は少子化問題を「国難」と呼んで演説冒頭から強い危機感を表明。今回は全世代型社会保障の中で取り上げ「次元の異なる政策が必要」だと語って、政策の方針として幼児教育や低所得世帯を対象に高等教育を無償化することを挙げた。しかし「家庭の経済事情」などの視点からだけでこの「国難」に対処できるのか。

 今国会最大の与野党対決案件となっている厚生労働省による「毎月勤労統計」の不正調査問題については、国民に陳謝したものの淡泊に通り過ぎた印象だ。統計行政の信頼の根幹に関わる重大問題のはずだ。厚労省だけでなく他省の基幹統計にも法律に抵触する可能性のある同様の問題が浮上。野党は「アベノミクス偽装だ」として対決姿勢を強めている。解決に向けて謙虚かつ丁寧な対応を求めたい。

 疑問なのはロシア外交に前のめりになっていることだ。演説の中身は領土問題を解決して平和条約を締結するとの基本方針を繰り返す程度。あとは「終止符を打つ、との強い意志を、プーチン大統領と共有した」と語るが、具体的にどういう道筋を描き、結論は何なのかが見えてこない。ロシアのラブロフ外相は北方四島は「第2次大戦の遺産」と述べている。4島の主権がわが国にあることを明確にしないまま、合意を焦れば、将来に禍根を残すことは確実だ。

 首相が悲願としてきた憲法改正については後退している。昨年10月の所信表明演説では、憲法審査会で各党が具体的な改正案を示し、与野党が政治的対立を超えるよう呼び掛けた上で「最終的に決めるのは国民だ」として国民と共に議論を深めることを求めた。ところが、今回は国会での議論の深化を期待する程度にとどめている。少なくとも与野党は、改憲議論を深めて「次の時代への道しるべ」づくりに歩調を合わせるべきだ。

「安全運転」で萎縮するな

 今国会は、国と国民にとって最重要の御代替わりを迎える。皆がこぞってことほぐことは大切だが、首相は夏の参院選を意識し「安全運転」ばかりを念頭に置いて萎縮するようなことがあってはならない。