安保法施行、今後も法制整備が必要だ


 集団的自衛権の限定行使などを容認した安全保障関連法が施行された。これで「防衛法制の整備は完了した」との見方もあるが、主要諸国の法制と比較すると依然として欠陥が多い。国家の安全確保のため、今後も一層の整備を忘れてはならない。

 参院選控え運用を先送り

 遺憾なのは、せっかく法制が整ったにもかかわらず、政府当局に運用を先送りする動きがある点だ。平時の米艦防護、国連平和維持活動(PKO)での駆け付け警護などの実施を、参院選への思惑から当面見送る。

 過去、自民党は防衛問題が選挙にマイナス要因との思い込みから争化を回避してきた。今回も同様だ。しかし、中国の沖縄県・尖閣諸島奪取の動きや南シナ海の軍事基地化、北朝鮮の核武装・弾道ミサイル開発の進展など日本周辺の国際情勢の緊迫化を念頭に置けば、逆に参院選で防衛問題を争点の一つとすべきだ。

 民主党当時から民進党は防衛問題について党内が大きく分裂している。このため、まともな防衛政策が打ち出せない状況にある。つまり、防衛問題は民進党の弱みである。それに参院選は、安保関連法に対する「戦争法」といったいわれなき非難による一部国民の誤解を解く機会となるだけではない。

 安倍晋三首相が強調しているように、次期参院選は近い将来に憲法改正ができるか否かの分水嶺だ。改憲の最重要事項の一つは9条と緊急事態条項の創設であることを想起すれば、防衛問題を回避していては、参院で3分の2を確保することは困難であろう。

 わが国の安全を維持するための基本方針は、平成25年末に策定された「国家安全保障戦略」である。だが、防衛力の実態は昭和32年の「国防の基本方針」下と同じく、攻撃力はほとんどない。それどころか、新戦略策定後も「日米安保の深化」が強調されるだけで、米軍への依存度は逆に高まっている。

 この状況下で米国の大統領選では、共和党の有力候補として不動産王ドナルド・トランプ氏が登場している。周知のように、同氏は「日米安保条約タダ乗り論」を展開している。「奇矯(ききょう)な性格を反映した発言」として一蹴する者が少なくない。

 だが警戒すべきは、共和党支持者のみならず民主党支持者の中にも同氏に共鳴する向きがいるという事実である。このため、誰が新大統領になろうとも、トランプ発言をある程度、取り上げざるを得ないと言える。

 「大統領は代わっても、政府官僚が奇矯な政策を取るはずはない」と楽観視する向きもいる。だが、米国の政府官僚は、日本で言えば各省庁の局次長・部長級までが新大統領により政治任命される。米国流のやり方は、政策変更がやりやすいという特徴がある。

 他国への過剰依存は危険

 かつて、ヒトラーからズデーテン地方の割譲を強要されていたチェコスロバキアは、後ろ盾の英仏両国の支援を期待していたが、ミュンヘン会談で見捨てられた。

 他国との同盟に過剰に国家の安全を託することは極めて危険である。