安保法制、守旧主義は国家の危機招く
礒崎陽輔首相補佐官が、安全保障法制整備に関して「法的安定性は関係ない」と発言したことに野党側が反発し、安倍晋三首相も「法的安定性は重要」と述べて失言と認めた。
そこでは「あらゆる政策より法の安定性が優先する」との大前提が潜んでおり、本末転倒の議論と言わねばならない。
情勢変化に応じた整備を
一国の成文憲法の中で建国の理念などに触れた「根本法」と呼ばれる条項は別として、その他の条項や一般の法は国家を運営するための道具にすぎない。従って、内外情勢の変化に応じた改正が不可欠である。
中でも国家の安全に関わる法制については、複雑な国際情勢に対応して、絶えず整備をすることが求められる。
わが国の場合は敗戦後、連合国による占領期に防衛法制が廃棄された。しかし、その後の厳しい冷戦期にも、法制の再整備はほとんどなされなかった。それ故に、諸外国以上に必要度は高い。
わが国は、冷戦下では安保の多くを米国に依存してきた。だが、その後の国際社会の構造的変化、米国の国力・軍事力の相対的低下、中国の領域拡大策の顕著化などによって、安保法制整備が急務となっている。
戦後の防衛政策面での対応で安全を確保できたから、過去のやり方の墨守でそのようにできるという保証は全くない。
惰性の中で思考し行動することは、楽でいい。しかし、一定の内外情勢の下では最適の法律であっても、情勢が一変すれば最悪の結果を招きかねないこともある。
守旧主義は、ルソーの指摘通り「法の持つ硬直性によって、国家を滅ぼしかねない」危険を内包していることを自覚すべきである。
一方、政権与党の自民党に政策変更を求める立場にある野党側にとっても、法の安定性を強調し過ぎることは墓穴を掘ることになりかねない。政策変更には既存の法の改正が必然的に伴うからである。
つまり、政策内容に関係なく法の安定性を強調し過ぎれば、野党の役割を放棄することになる。その上、国会は立法府であり、法律を制定することが国会議員の責務である。
法の安定性が何よりも優先されるのであれば、新たな法は不要になってくる。その結果、国会議員の大幅削減論も浮上してこよう。
内外情勢の大きな変化にもかかわらず、事態を法制に対応させなければ、国力は衰退し国際社会で不利な立場に置かれる。国際的に窮地に陥り、国内的にも大混乱を来すことは、革命に好都合な状況を生み出すことになる。
こうした視点から共産党は、安保法制整備に対して政策論ではなく、アジテーション、プロパガンダ、デモなどを展開している。
民主は共産に追随するな
民主党が議会制民主主義国家の野党第1党として、国家の安全をどのような形で確保するかの次元ではなく、共産党に追随するような議論を展開しているようでは、政権への返り咲きは不可能になろう。
(8月3日付社説)