東京12区 「太田優位」脅かす田母神

’14衆院選 注目区を行く(2)

300 自公連立の象徴的な選挙区とされるのが東京12区だ。現国土交通相の太田昭宏は公明党代表も務めた同党の“ドン”だ。前回、太田は11万票余を獲得して圧勝し、他を寄せ付けない貫禄を見せた。2003年の衆院選以降、自民党は自前候補を立てず、今回も太田を推薦。民主党も前回に引き続き候補擁立を見送った。与野党第1党の候補不在の選挙区でもある。

 この公明の牙城に挑戦状をたたき付けたのが、次世代の党・田母神俊雄だ。航空幕僚長時代から保守派の論客として知られているが、2月の都知事選に出馬し約61万票を獲得、知名度を高めた。

400 2日の公示日、第一声街頭演説で、田母神は中国船による尖閣諸島の領海侵犯や小笠原沖での密漁に対する政府の対応を批判した上で、「公明党の国交相では日本は守れない。公明党は、集団的自衛権行使、普天間基地の辺野古移設、憲法改正、全部反対だ。自公分断しなければ日本を取り戻せない」と訴え、「公明党をぶっ潰せ」と叫んだ。

 田母神陣営では「前回、白票が約4万票もあった。その大半が保守票。太田に入れた自民票を合わせれば勝算はある」(選対幹部)と分析。「反公明」を前面に打ち出して保守票の取り込みを図る戦略だ。それでも「太田優位」は動きそうにない。

 ところが、5日夕、両陣営が同時刻にJR赤羽駅を挟んで対峙(たいじ)したとき、思わぬ展開を見せた。

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候補者とともに気勢を上げる有権者5日午後、東京・JR王子駅中央口

 仕事帰りや買い物客でごった返す同駅東口に陣取った田母神の街頭演説には約300人の有権者が詰め掛けた。田母神が「公明党は中国に貢ぐことをやめない。日本の誇りを取り戻し、伝統、文化を立て直そう」と訴えると、大きな拍手と声援が起きた。熱心に耳を傾ける若者の多いのが目に付く。「投票したい候補が出てくれた」と話す23歳の女性は、「頑張れ」とこぶしを挙げた。

 これに対し、西口での太田の街頭演説に足を止めたのは20人程度。田母神側の攻撃を意識してか、応援に駆け付けた自民党都議は「小笠原の密漁漁船は太田が全部追っ払った」と強調。太田は「私が国交相になってから中国人の訪日客数が日本人の訪中を上回った。日本が儲かるようになったということだ」と実績をアピールするが反応は鈍い。握手を求めて回る太田に笑顔はなかった。

 田母神陣営は、有権者の好反応を認めるが、「公明党は、都議、区議総動員で水面下で動いている」(応援の区議)と気を引き締める。

 両者激突の蚊帳の外に置かれた格好なのが生活の党・青木愛だ。青木はいわゆる「小沢ガールズ」の一人。09年、マニフェスト選挙の風を受け民主党で太田に勝っている。だが、今回は無風選挙といわれる。選対幹部は「まだ戦況をつかめる段階にない」と述べるにとどめ苦戦を示唆。「民主、維新調整候補」と記した街宣車で「消費税10%引き上げ反対」を訴える。

(敬称略)

(2014衆院選取材班)