こども庁創設、家族重視の政策を進めよ


 自民党がこども庁創設に向けた議論を開始した。ただ、子供の問題は親の問題でもある。対症療法的なものにとどまらず、伝統的な家族観を重視した政策の推進を期待したい。

 自民が検討組織を新設

 自民党は菅義偉首相(党総裁)直属の検討組織を新設。こども庁に担当閣僚と長官を置き、不妊治療、いじめ、虐待など広範な課題を包括する調整機能を持たせる方向だ。首相が打ち出している行政の縦割り打破の一環でもある。

 日本では少子化が急速に進んでいる。厚生労働省が2月に発表した人口動態統計(速報)によると、2020年の出生数は前年比2万5917人(2・9%)減の87万2683人で過去最少となった。減少率から見て9月公表の出生数の確定数は、19年の86万5239人を下回り過去最少を更新する見通しだ。

 菅政権は少子化対策として、22年4月から不妊治療に公的医療保険を適用する方針だ。しかし、日本では不妊治療で妊娠・出産に至る確率は極めて低い。日本産科婦人科学会によると、生殖補助医療の妊娠・出産率は30代前半でも20%前後にすぎない。30代後半から低下し、40代では5%以下になるという。

 求められるのは、高齢出産のリスクなど妊娠・出産に関する正しい知識の啓発である。かつて政府が検討した「女性手帳」配布のような取り組みを、こども庁でも進めてほしい。

 児童虐待をめぐっては、昨年1年間に警察が検挙した件数が2133件(前年比8・2%増)、被害に遭った18歳未満の子供は2172人(同9・1%増)で、ともに過去最多を更新したことが警察庁のまとめで分かった。無理心中を含め、死亡した子供は61人に上っている。このほか、子供の目の前で親が配偶者らパートナーから暴力(DV)を受ける「面前DV」を含む心理的虐待も増えている。

 首相は「児童虐待の防止には警察庁や文部科学省、法務省や総務省など多くの省庁が関係する。縦割りを打破し、組織のあり方を抜本から考えていく必要がある」と述べている。ただ、縦割りをなくせば解決するわけではあるまい。

 少子化や児童虐待などの背景には、戦後に個人主義が蔓延(まんえん)する中、結婚や家族の価値が徐々に低下してきたことがある。かつては一定の年齢に達すれば、見合いなどで結婚することが当たり前だった。だが今では未婚化や晩婚化が進み、結婚を勧めれば「セクハラ」と批判されかねない。

 また結婚には、当人同士だけでなく子供の幸せを考えることが求められる。子供の存在を尊く思えなければ、幸福な家庭を築くことはできない。

 新省庁は「家族庁」に

 首相は「子供は国の宝」と述べた。その通りである。ただ子供の問題を解決するには、子供だけでなく家族全体に目を向け、個人主義から家族重視への価値転換を図る必要がある。

 新省庁の名前は、こども庁よりも「家族庁」の方がいいのではないか。結婚や育児、家庭の素晴らしさを伝え、結婚を支援することなども役割に加えてもらいたい。