国の法整備が不可欠 山形県議会議員 今井榮喜(えいき)氏に聞く
山形県、水資源保全条例を制定
中国はじめ外国資本が水資源に絡む土地を取得した後に乱開発されていることを受けて、各自治体では水資源保全条例などの制定を進めている。山形県でもこれまで森林など50㌶が買収されており、県は水資源保全条例を制定(昨年10月施行)した。条例の制定にあたった今井榮喜県議会議員は、国レベルでの関連法の制定や、教育による意識づくりの必要性を訴える。
(聞き手=市原幸彦・仙台支局長)
買収元の中国に懸念/心配される水や空気の安全
中国人は日本の土地買えても/日本人は中国の土地買えない
平成22年7月にシンガポール在住の外国人男性が最上川の源流(米沢市)の私有林を約10㌶購入した。一応別荘用ということだが、国土利用計画法(国土法)では1㌶未満の森林取引は届け出不要なので、ほかにも土地購入されている可能性がある。水源地の水を勝手に国外に持ち出すようなことはあってはならない。下流域住民の死活問題になりかねない。
――条例の内容と特徴はどのようなものか。
水資源保全地域における土地取引および土地利用の事前届け出制度を設けた。何に使うかを制約するためだ。これまでは事後届け出だった。過料の規定は東北初だ。
北海道はこれまで1039㌶が買収された。一番懸念されるのは中国だ。我が国の水や空気の安全が極めて心配される。
しかし、この問題は海外というより、むしろ日本の国が敗戦後、経済さえ復興すればいいという考え方が強く出てきてしまった結果だ。その一端として、土地の問題がたいへん大きな問題として浮かび上がってきた。
――なぜ大切な土地を売ってしまうのか。
日本では今、森林に対して管理したいという人がほとんどいない。相続にしても子供も孫も要らないという。うちの山がどこにあるか分からない。固定資産税を払っているより、金になった方がいいという発想がある。そこに外国からの攻勢がかけられた場合には、売ってしまう。外国からの輸入に頼っていることが続いてきた結果だ。
――自衛隊基地に隣接した土地を中国が買い上げている。
自然の山とか農地ということだけでなく、防衛面でも問題が出ているのではないか。自衛隊に隣接した土地を中国が買い上げている。機密性が保たれるのかという問題がある。
新潟市では万代小学校の跡地1万5000平方㍍(5000坪)を中国が買い取り、総領事館を移転しようとした。市議会に反対の請願が出て駄目になったが、今、信濃川周辺の私有地を買収しようとしている。5000坪なんてただの領事館ではなく他に目的があると見ざるを得ない。そういう例を見て、山形県でも指をくわえて見ているわけにはいかなかった。
――地方自治体の条例レベルでは規制に限界があるといわれる。
山の場合は国有林が7割だ。また市町村がおのおの条例を設けることは経費の問題もあり、現実的ではない。県として昨年3月に安倍総理に「水資源の保全に関する法整備を求める意見書」を提出した。国がどこまでやれるか、非常に関心を持っている。
――現在の国土法の問題点は?
日本には土地の売買規制は農地以外にはない。水資源や離島、防衛施設近接地でも売り手と買い手さえ合意すれば土地取引が成立する。国土法に基づく事後届け出義務があるが、取引現場での認識は低く、実際にどれだけ届け出が行われているのか国も把握していない。
――北海道が昨年、全国で初めて「外国資本による森林買収」に関する調査結果を公表して以来、土地所有者不明が顕在化した。
土地の扱いは、憲法の財産権や民法の所有権にも関わる問題であり、国の法整備なしに条例のみで解決するには限界がある。国に土地制度の見直しを求める自治体からの意見書・要望書が100件を超え、平成23年に改正森林法を制定したが、取引が事後に判明するので十分とは言えない。
――安倍総理は昨年4月に、不動産登記や地籍調査、固定資産税の徴税など土地制度の見直し検討を表明したが。
果たして今の総理の立場としてどこまでできるか。世界との取引も関わってくるので、下積みが必要だろう。問題は、中国では日本人は買えないようになっていることだ。中国の大使館は皆借地だ。中国の土地は買えないのに、中国は日本の土地を買っている。一線を引くべきではないか。
――日本では開始から60年たっても地籍調査が半分しか進んでいない。
地籍調査は山形県も毎年予算を組んでやっているが、特に山などは登記所にある図面と現場が合っていなかったり、図面上では分からないのが現実にある。航空写真をしっかり撮るなど、費用がかなりかかる。しかし、その辺をはっきりしないと、法務局にある登記簿だけの売買になる。
――2、3年前には、中国は長江で深刻な干ばつに見舞われるなど、水不足が深刻化した。
中国の開発に対して、日本をどう守っていくかというのが我々の基本だ。海にしろ山にしろ中国は略奪に近いことをやっている。自分の国が駄目だから、よその国から持ってこいという発想は非常に怖い。
――東北などは森林資源が豊富になってきており、震災後は林産業の復活も期待されている。
日本は木材の輸入が多い。木材の輸入に頼った方が安く売買できるという、あくまで経済的な発想しかない。なぜ安いかというと、外国の労働力が安ければ加工した木材でも安く買える。簡単ではないと思う。
国なり、地方自治体、そして個人が、山の重要性を再認識しないといけない。ドイツでは大型機械とかみな発達している。今は、スタンドに行って灯油を18㍑詰めれば温まることができる。山の道もない所に簡単に入ろうと思う人はいない。産業道路などをしっかりつくって大型機械がどんどん入れるようにする必要がある。
――教育からの観点の必要性もあると訴えているが。
土地の問題を含めて、日本と世界という中で、今の日本は非常に心配だ。この数十年、教育の問題から国家観、地域観、家族観も含めて戦後の教育に大きな問題があったのではないか。教育とか防衛とか百年の大計が必要だ。子供たちへの教育、農業、外交問題も。こういうのはすぐに結果が出るわけではない。30年、50年かかる。
水や森林といった貴重な財産を守っていけるような体制をいかに構築するか大事なときだ。他県では防衛施設の近辺の土地も売られている。普通の国だったら売るはずがない。まず我々が国家を守っていくという意識をしっかり持たないといけない。
――郷土愛を育むということか。
ただ郷土愛というより、水や森林の保全は子々孫々が生きていくための必要条件だ。20年ほど前にペルーに行ったときに驚いたのは、ガソリンがただみたいで水が貴重品だった。そのうち日本もそうなると言った。案の定そうなっている。ペットボトルの水はガソリンより高い。それに皆が気づかない。
県内で10年ほど前から「海の幸を育む山に緑を」と、寿司商組合の方々が子供たちに毎年植林をさせるなど、部分的にはいろいろやっている。国なり、地方自治体、そして個人が、山林の重要性を再認識する必要がある。
ともあれ条例を作ったが、まだまだ生ぬるいと思う。まずその徹底が求められている。我々もその点は十分覚悟していくつもりだ。