日中佐官級交流の再開を祝す

茅原 郁生4拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

相互理解と信頼醸成へ
将来担う軍事プロ同士が対話

 中国人民解放軍佐官級訪日交流事業の一環として4月17日の歓迎レセプションに招待され、久々に懐かしい旧知の方々との交流ができた。同時にこのところ北朝鮮問題の話題に隠れがちな日中交流の重要性を改めて考えさせられる機会ともなった。

 そもそも「佐官級交流」事業は、「日中防衛関係者の信頼醸成に資するため、自衛隊と人民解放軍の中堅幹部に交流と対話の場を提供し、相互理解を促進する」との目的で2001年から着手された事業である。21世紀を迎える頃、日中関係が各方面で人的交流を活発化する中で、防衛正面の交流は国家主権に関わる分野で政治問題に関わりやすく、進展が遅れていたが、その実情を憂慮された笹川平和財団笹川陽平会長(当時)の発案で始まった事業である。

 「佐官級交流」での交流当事者は自衛官であり解放軍軍人であって、日本の防衛当局や中国国防当局の協力は不可欠で、現に防衛省、中央軍事委員会国際軍事合作弁公室と関連学会・中国国際戦略学会が中心になって主催者を支援している。今次18年度中国人民解放軍訪日団は、団長が慈国巍少将(中央軍事委員会国際軍事合作弁公室副主任)で、団員として陸軍から佟文埼上級大佐以下13人、海軍から毛赤龍大佐以下4人、空軍からは劉東昆大佐以下2人で、上級大佐から大尉まで総勢25人の来日団であった。注目されたのは15年からの習近平軍事改革で新たに軍種となった戦略支援部隊やロケット軍からの参加者(共に上級大佐)が陸軍扱いで紹介されていたことであった。

 周知のように日中間には歴史問題など政治的な課題があり、自衛隊も解放軍も共に国家防衛を担う武装集団であるが故に主権に密接に関わる中で、なかなか交流を言い出せない状況と立場にあった。また軍事力の国家における地位役割にも双方には大きなギャップもあった。これらを踏まえて「佐官級交流」は民間団体である笹川平和財団・笹川日中友好基金が主宰者となり、国家そのものの解放軍との交流を「トラック1・5」の交流とすべく知恵が働かされた。

 そしてトラック1・5の交流は10年間続き、これまでの実績として自衛隊からは11回の訪中団で126人、解放軍からの来日団は10回で207人と合計333人の中堅制服将校が相互訪問に参加している。相手国への滞在は相互に10日間程度の短い訪問であるが、将来の自衛隊、解放軍を担う中堅将校の相互訪問による相手国の観察や軍事プロフェッショナル同士の意見交換・対話で、今日の相互理解にとどまらず将来に向けて信頼醸成への大きな投資になることは間違いない。その目標に向かって交流の中身は相互に防衛分野の指導者への表敬、陸海空部隊および教育研究機関の訪問を中心に、相手国に対する総合的な理解を深めるため政治、経済、社会、文化、歴史に関する多様な研修内容が盛り込まれてきた。

 余談ながら筆者は、本事業の開始段階で笹川会長に「防衛正面の日中交流の実情や課題」をご進講し、また同事業の初期段階では解放軍佐官に「日本から見た中国」の講義や当時実施されたホームステイで4人の将校を自宅にお招きしたことなどが想起され、本事業の再開には感慨深いものがある。

 実際に「トラック1・5の佐官級交流」の意義には、政治的な影響が少なく安定した交流チャネル機能、将来を担う30、40代の中堅幹部の視野を広げる、トップクラスの要人の話が直接聞ける、多彩な研修内容が用意される、などが挙げられ、中国国営通信・新華社も報じている(4・18)。

 7年ぶりに再開された18年度中国解放軍訪日団は、4月15日から22日までの期間に、歓迎レセプションの他に防衛省(防衛大臣表敬)や陸上自衛隊は東日本大震災で統合司令部となった東北方面隊総監部(仙台)を、航空自衛隊では浜松基地を、また海上自衛隊では江田島の幹部候補生学校をそれぞれ現地で視察している。海幹候校長は過去の訪中団参加経験者で今や将官となって訪日団を受け入れたエピソードが紹介された。また国会議事堂参観や企業研修など多彩で充実した日程が組まれていた。

 18年度「佐官級交流」の再開実現は年初に笹川会長が訪中をして「佐官級交流」の再開を打診したところ中国側が積極的に乗ってきて4月の訪中を提示してきたもので、わずか2カ月の準備しかない飛び込み的な行事が実現したのは、自衛隊側の並々ならぬ努力があったからだと笹川会長から会場で謝辞が披露された。本年が東シナ海での危機管理・「海空連絡メカニズム」の基本合意や日中平和友好条約締結40周年の節目に当たることから李克強総理の来日、その後の日中首脳会談につながる要人の相互往来が期待される中で、「佐官級交流」の再開は、まさに日中関係を発展させるキックオフとなることが期待されている。

 北朝鮮の核廃絶や朝鮮半島の平和安定が、南北首脳会談や米朝首脳会談などが具体的に進められる折から、共にアジアの地域大国として日中両国の役割と働きも期待されている。今後の「佐官級交流」の研修テーマには国連平和維持活動(PKO)派遣や災害時への部隊派遣などが俎上(そじょう)に上がっている由、本事業が日中関係発展の真のキックオフとなることが期待される所以(ゆえん)である。

(かやはら・いくお)