在り方問われる巨大IT企業
アメリカン・エンタープライズ政策研究所客員研究員 加瀬 みき
不当に個人情報集め悪用
操られる市民の政治的思考
フェイスブック(FB)やツイッターといったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)やグーグルなどの検索エンジン、アマゾンなどのネットショップ。こうしたITを利用した巨大IT企業のサービスは欠かせない日常の道具となっている。しかし、そうしたハイテク道具が不当に個人情報を収集し、さらにはそれを利用することで個人の嗜好(しこう)や政治的思考が操られ、選挙にも大きな影響を及ぼしているのではないか。アメリカ議会は巨大IT企業の在り方を問い直している。
FBの共同創設者で最高経営責任者(CEO)であるマーク・ザッカーバーグが米上下両院で厳しい質問攻めに遭った。当初証言を拒んでいたが、社会の同社に対する目が厳しくなり、株価も下がる中、とうとう上院の公聴会、翌日は下院のエネルギー商業委員会で証言し、個人情報の管理が甘かったことなどに対し謝罪を繰り返した。
巨大IT企業と政府は、民間企業の政治や安全保障に対する責任や個人情報管理に関し長年攻防を繰り返してきた。2015年12月カリフォルニアのサンベルナンディーノでテロが起きた際、使用された「iPhone(アイフォーン)」の交信からテロに関する情報を得るために連邦捜査局(FBI)がアップル社に暗号解読の協力を求めたが、拒まれた。この事件以来、IT企業の社会的責任が問われてきた。
ザッカーバーグ証言のきっかけはFBが収集した個人情報をケンブリッジ・アナリティカ(CA)というロンドンに本社がある企業が利用し、そのデータが16年のアメリカの大統領選挙や英国の欧州連合離脱を問う国民投票への不正介入に利用された可能性である。
CAはデータマイニング(IT技術によって集めた大量のデータを解析し、規則性や傾向などを発見する)を利用し、得たデータの売買や選挙対策の一環としての戦略的コミュニケーション手法を売る会社である。資金提供者にはトランプ大統領の選挙活動支援者であった億万長者マーサー家が名を連ね、昨年夏までトランプ大統領の戦略顧問であったスティーブン・バノンが副社長であった。オバマ前大統領の2度にわたる選挙での勝利にハイテクを利用したデータ収集が活用されたのに対し、共和党がこの分野で出遅れていたことが、CA創設のきっかけであった。
FBが収集した個人情報を活用するというアイデアはケンブリッジ大学のロシア系学者アレクサンダー・コーガンらが編み出したものであり、それをCAの親会社SCL選挙専門会社が買い取り、収集したデータから個人の政治的思考を分析し、それをいかに活用するかの手法を編み出した。SCLとCAの社長は同一人物である。
FBから情報を集められた個人の数は8700万人に及ぶとされている。正当な手法で集められたデータは数千であったが、そこから「友達」のデータも収集できることから、数が大幅に膨れた。FB利用者が知らぬうちに個人情報が、それも名前や職業などの基本データばかりでなく、友人名、政治思考、経済状態などの情報も集められていた。さらにはそれらがコーガンからSCLを通じCAへ売られた。個人情報が不当に収集され、さらにはそれが売買されたことになる。
これらのデータを得たCAは、無所属の有権者や所属政党がはっきりしていても党の候補に投票するかを迷っている有権者に向け、民主党支持者であってもクリントン候補には投票しないよう、一方トランプ共和党候補者に一票を投じさせるインセンティブとなるような広告を表示したりと、有権者それぞれの状況に即したメッセージを送ることができたことになる。
FBやグーグルなどの在り方は、ロシアがこうした巨大IT企業を利用して16年の大統領選挙へ介入したことが明らかになって以来、さらに大きな問題となってきた。しかしFB等はニュースの媒体となり、市民の嗜好や政治的思考に大きな影響を与えていても、新聞などのマスコミではないため、例えばロシアが不当に政治的な影響を及ぼすためにFBを利用してもそれらを報告する義務もない。利用者は使用料を払うことはないが、いずれの企業も膨大な収益を得、経営者たちは億万長者である。それを可能にしているのは、こうしたプラットフォームをあらゆる企業が大金を払い、情報収集や広告媒体として利用するからある。
さまざまな企業がアマゾンなどに広告を掲載するだけではない。FBなどが収集したデータは、あらゆる業種の企業の消費者開拓などの経営戦略に活用されている。SNSやグーグル、アマゾンは生活を便利にし、経済や社会にさまざまな可能性を広げ、一方、FBや一般企業にとってはデータ収集とその活用が収益をもたらしている。しかし、個人情報が不当に収集され、それが不正に使用され、さらには海外政府や企業に悪用されているのは紛れもない事実である。巨大IT企業の有効性を殺すことなく、個人情報の管理など政府がいかに運営方法を取り締まるかがやっと本格的に問われている。個人の利用者もデータ管理、そして特に政治・経済に関する情報の源やその内容に細かい注意を払う必要がある。(敬称略)
(かせ・みき)