人口減少は安全保障にも打撃

エルドリッヂ研究所代表・政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ

ロバート・D・エルドリッヂ

自衛隊の兵力維持困難に
給料増や最新技術でも補えず

 日本では、少子化および高齢化の両方の問題が進んでおり、先進国の中で最も深刻だ。実は日本は「超高齢化社会」と言われるほどだ。これはさまざまな分野で多くの問題をもたらすが、最も注目されるのは経済だ。しかし、安全保障にも大きな打撃を与える。特に自衛隊の兵力の維持が問題になる。働く人口が減れば減るほど税収が減り、防衛予算は必然的に減る。自衛隊に入る対象年齢である18歳から26歳までの人口が減れば、企業との争奪戦が一層激しくなる。

 ここで政府の幾つかの解決策を含む考えられるものを取り上げながら検証していく。少子化問題は単なる経済問題だけではなく、安全保障の問題でもあるということを日本国民に理解してもらうとともに、少子化問題により真剣に対応してもらうのが目的だ。

 まず、政府の解決策の一つは、自衛官の給料をアップすること。給与面で魅力的な仕事だとアピールするとともに、退職する自衛官を食い止めるためでもある。だが、予算の限界の問題がある。

 もう一つの解決策は、人工知能やドローンなどの最新技術を導入することによって隊員を減らすということ。だが、ハイテク技術製品の購入には相当予算がかかり、また、それを操作する隊員の養成も必要になる。

 三つ目の政府の解決策は、西洋諸国と同様に女性自衛官の数を倍にすることだ。それは男女共同参画社会にはメリットがあるが、少子化対策としては逆効果となることが考えられる。

 また、予備自衛官の数を増やすことも対策の一つだが、個人の差はあれど、予備自衛官は現職ほど即応戦力にならない。それ以外に考えられる対策は、自衛隊をはじめ防衛省全体の隊員・職員の仕事の効率化だ。極めて無駄が多いのだが、これだけでは効果は限定的だと思われる。

 また、自衛官の退職年齢を引き上げるのも一つの手だが、全体的な能力の低下につながりかねない。同様に、自衛官の採用条件の引き下げも考えられるが、これも全体能力の低下に確実につながる。もう一つ議論される対策は、徴兵制度の導入である。しかし、これは憲法の第18条に反する。

 また、コントラクター(契約会社)との関係で、兵力を維持できるとの考えもあるが、その場合、結果としてコストが高く、冒頭で言及した予算の問題に直面する。コスト削減の一つの方法は、外国人あるいは、外国軍隊・武装集団の採用があるが、当然、日本への忠誠の問題がある。

 また、考えられるのは自衛隊の海外任務の削減だ。しかしながら、この削減はかえって国際安全保障の環境を悪化させかねないというジレンマが生じる。同様に、日本は安全保障のアメリカへの依存度を増やすことができる。だが、アメリカ、特に議会や時の政権は、日本に別の払い難い約束やコミットを求めるだろうから、安全保障を安くカバーできない。

 安全保障の役割をより分担するという解決策もある。特にインド・アジア太平洋地域において、日本はこれまで以上に役割を担い、最終的には地域の集団安全保障機構の構築を視野に入れるべきだ。だが、集団的自衛権の問題もあり、第9条の改正や、当然、日本も一定のレベルの安全保障を提供しないといけなくなり、コミット増加にもつながる可能性がある。

 安全保障を安くして兵員を減らそうとする場合、限定的核抑止力の導入がすぐ浮かびがちだが、これは逆にコストが高くつき、また通常戦争の対応などができなくなる。さらに核の拡散につながりかねず、安全保障環境を悪化させる悪循環をもたらすと指摘できる。

 最後の解決策は相互関連であるが、自衛隊内をはじめ米軍と自衛隊との間での合理化だ。特に、基地の統合・整理縮小、共同使用が求められる。複数のメリットがあるが、スケールダウンすることによって両国にとって人員削減になり、予算をより効率的に使える。だが、急速な人口減少と比べて、それでも効果は限られていると言わざるを得ない。

 いずれにしても、上記の解決策は、個別ではなく総合的に見る必要がある。一つか二つだけの導入では間に合わない。

 最後に、耳の痛い話をしなければならない。万が一、戦争が勃発して、すぐ戦える自衛官の補充、補完(replenish)をする必要が生じても、現在の考え方では不可能だ。つまり、兵力維持という考えは、平和ボケの国の概念だ。

 二つ目の怖い話は、人口減少の問題だ。人口統計学者によれば、今から約40年後、日本の人口は1億人を切ると言われている。しかし、時々、専門家は間違いを犯すことがある。東日本大震災による被害は、「想定外」と言われたことを思い出せば分かると思う。

 日本が大好きな筆者は、この人口統計の固定概念にとらわれてしまっているのではないかと心配する。人口減少は早く進み、1億人を切るのはもっと早くなるかもしれない。若者は、「これ以上、日本に居ても希望がない、夢がかなわない」と絶望感を持ち、人材獲得競争で優秀な日本人が流出する時代が来るのでは、と想像できる。

 そうすれば、自衛隊の補完どころか、維持そのものが不可能になり、国防そのものができなくなる。