米新型空母就役に思う
中国空母への対応怠るな
自衛隊ミサイルの射程延伸を
7月22日かねて艤装(ぎそう)作業中の米海軍空母ジェラルド・フォードが就役した旨報道された。これにより米海軍は空母打撃群11隻の体制となり、さらに現在建造中の2番艦ジョン・F・ケネディの就役を待って12隻体制に復帰するようである。今回は空母の趨勢(すうせい)について若干の所見を披露したい。
まず空母の定義であるが、定まったものはない。本稿では、固定翼作戦機(戦闘機・攻撃機)搭載の戦闘艦艇を対象にし、ヘリ空母・強襲艦等は除外して考える。空母の種類は、現状概ね3種類と考えてよい。第一は米国の誇る大型空母である。正規空母とも呼ばれ、約10万トン、搭載作戦機数70機以上、全通型の飛行甲板で、いずれも原子力推進である。第二は露・英・仏・中が有する5万トン前後の中型空母で、搭載機数40機程度、スキージャンプ型甲板、通常型推進艦である(仏は全通・原子力)。第三は3万トン以下の小型空母で、搭載機20機程度、ヘリコプターとの混用が多い。保有隻数は米国の11隻が頭抜けており、他は1隻または2隻にとどまる。こうして見ると、米国の空母能力は突出しており、「空母決戦」というような大時代的発想は、見通し得る将来考えられないところである。
空母の本質は近代戦の核心である「航空戦力」を、必要な地域に展開し、紛争地域の制空権・制海権を確保するにある。従って、米国のように地球上の各所に安全保障上のコミットメントを有する場合、多数の大型空母を保有し、危機管理の早い時期から、拡大防止を図り、紛争介入時には、早期に有利な状況を構築するため、その必要性が認められる。英仏のように、遠隔の地に海外領土を持ち、あるいは旧宗主国として、広く防衛上の協定国を有する場合は、必要なのであろう。また、露・印・豪・ブラジルのように、領土が広大で、地上航空基地ではとてもカバーできないような国では、機動運用手段としてその有用性が認められる。しかし、空母部隊の維持運営には、莫大(ばくだい)な経費が必要とされ、中型空母以下の隻数は減少しつつあるのが現状である。特に従来セコハン(中古)を運用していた諸国では、空母専用から航空機発着可能な強襲艦、多目的艦へのシフト傾向が顕著である。
空母戦力の脆弱(ぜいじゃく)性に触れてみたい。空母は保有国の有力な戦力ではあるが、本土を離れ洋上孤立した状況での運用が主体となるため、格好の攻撃目標となることから、艦隊防御・艦隊防空が重要な要素となる。米国の場合、対艦・対空・対潜に優れた戦闘艦と機動部隊を編成し、空母群保有の組織的防御網のみならず、グローバルなデータリンクの警戒監視の下、万全の態勢で行動するといわれるが、決して万全ではない。特に最近各国で開発が進む、対艦ミサイル、巡航ミサイルは有効な対抗手段であり、イージス艦をはじめとする艦隊防空能力も、多数の対艦ミサイルの飽和攻撃には、対処困難な場合が想定される。長距離対艦ミサイル、宇宙空間を併用した警戒監視ネットワークの進展は空母戦力の趨勢を見る上で、大きなポイントとなっていくことが容易に推察される。
このような情勢下、中国が進める空母部隊建設について考えてみたい。中国は空母4隻の保有を目指し、各種準備を進めている。既に就役している遼寧を1番艦とし、同型の2番艦の建設が進んでいる。母港も海南島地区に米国をしのぐ長岸壁を建造、近接する原潜母港と相まって戦略拠点の構築に余念がない。南シナ海領海化の主張も、この戦略拠点構想の一環でもある。しかし、遼寧の実態は、訓練艦とはいえ、米艦に比べると見劣りすることおびただしい。搭載機(SU33)の不安定さを筆頭に、カタパルト、拘束装置等基本技術はまだまだ未熟と言わざるを得ない。これらの状況から、実力的には外洋進出にはかなりの困難を伴うこととなろう。しかし、東・南シナ海内部においては十分威力を発揮するであろうことから、しかるべき対応を怠ってはならない。
先日、航空自衛隊F2搭載の新型対艦ミサイルASM3の予算化が報道されたが、従来のASM・SSMに比し、射程延伸、高速化が図られているとされ、誠に結構な話である。しかし、空母搭載機の持つ戦闘行動半径、係争が危惧される地域と我が作戦根拠基地との距離を考慮するならば、まだまだ射程は短過ぎる。縦深性を持ちわれに有利な位置からの攻撃能力という観点からはさらなる射程延伸が必要である。陸上自衛隊ミサイル連隊も同様の指摘がなされる。
陸自ミサイル連隊は着上陸対処の観点から近距離での対艦攻撃を主体に整備されてきたが、情勢の変化に伴い、射程延伸、海空システムとの連接によるオーバーホライゾンでの攻撃能力の整備が急務である。システム統合は既に予算処置も進んでいるところであるが、発射拠点の縦深性、柔軟性の観点からさらなる長射程化が必要とされる。
海上自衛隊対艦ミサイルも、米国から導入のハプーン型と空陸から派生したSSMに大別されるが、射程は同様に問題である。列国対艦ミサイルが射程数百キロに及ぶ中、何としても改善が必要である。「他国領土への進攻能力」といった自己閉鎖的な考えが横溢(おういつ)してきた経緯もあるが、周辺国の軍事情勢の劇的な変化に対応していくことが、健全な防衛力構築の基本である。
(すぎやま・しげる)