日印が連携し米国善導を
期待外れのトランプ氏
着々と覇権拡大進める中国
アジア太平洋地区の国際環境も天候不順のこの頃のように先が読めないものになってきている。この紙面でも私はトランプ米大統領に期待するような文章を書いたが、これもだんだんと期待外れかも……という不安を感じ始めている。
大統領選の予備選および本選挙期間中はアジア太平洋地域における中国の脅威に対しても正確な認知をしていたようだった。また彼の選挙参謀から大統領就任当初の移行チームには、彼の考えが反映されるような人材の配置もあったように思う。しかし4月初旬に中国共産党国家主席の習近平と会ってからは、何か様相が少し変わってきた。
本人は優秀な交渉人であり、駆け引きの神様でもあるかのように自己陶酔しているようだが、実際は彼の言動はアジア太平洋地域の地政学的安全保障に著しく不安定化をもたらしている。本人は中国カードを北朝鮮に対して上手に使っているつもりでいるが、実際は中国に逆に利用されているような状況が感じられる。北朝鮮一国の対応に振り回され、アジア全体の安全保障がおろそかになっている。例えば中国は依然として着実に南シナ海の事実支配を推し進めている一方、アジア各国との関係強化並びに台湾の孤立化などを計画的に推し進めている。だがトランプ大統領はそれを助けるかのように環太平洋連携協定(TPP)脱退、パリ協定脱退をし、その空白を埋めるかのように中国は影響力を増してきている。
トランプ大統領は就任以降、民主主義、自由と人権など普遍的な人類共通の価値観についてあまり触れず、目先の経済的利益のみに左右されるような言動を繰り返している。彼の政策行動はアメリカ・ファーストというアメリカ合衆国の国益とトランプ・ファミリーの私利が混同しているようにさえ見られる言動が目立っている。残念ながら今まで44代のアメリカ合衆国大統領たちの偉業によってアメリカという国が比較にならない世界超大国になっており、その影響力はあまりにも大きいため45代目の大統領がつくっている政治的経済的そして正義のためというアメリカの、世界に対する指導力に期待できない現状では各地域、各国はより一層おのおのの地域並びに国家の安全保障と経済発展に対して、より重い責任を果たさなければならなくなってきている。
中国共産党は「核心的利益」と言うが、核心的な指導者としての習近平は、他の政治局常務員を差し置いて自分の政権の地盤固めを推し進めるため、台湾と国交のある国々に対し、アメとムチを使い分けながらバチカンに接近し、パナマと台湾の国交断絶を成功させている。また世界各国の首脳や政治家に対して積極的に働き掛け、ダライ・ラマ法王との謁見(えっけん)を阻止するとともに法王の人格抹殺を図っている。例えばチベット国民が選んでいない中国政府によって一方的に人民代表に推挙された人々が日本を訪問し、日中友好儀礼をはじめさまざまな人々と接触し、ダライ・ラマ法王は歴史と現状を歪曲(わいきょく)しているとドルジェ・ツェテン団長らは熱弁を奮っているようだ。もちろんこれは正反対であり彼らこそ中国共産党の命令によって真実を隠蔽(いんぺい)するための使節団としての役割を演じているにすぎない。
長きにわたって各国は官僚たちをプロの国益追求家として教育しており、彼らは特定の政党や特定の人物に仕えるのではなく国家と国民に仕え、常に国益を最優先するような教育を受け、それが官僚としての正義であることを教えられてきている。その正義を貫くことが不可能になり、時の指導者や政策に納得いかない場合には抗議の意味も含め、自ら職を辞するという方法もある。今回アメリカの中国大使館のナンバー2が辞職するという行動はまさにそれである。
一方、日本の元官僚や官僚がそのような行動に出た時は、強い正義感というよりも私的な復讐や売名行為の要素の方が強く感じる。今回の文部科学省の前事務次官にしても彼にそれだけの正義感があれば、現職の時に行動に出るべきであったと思う。私は野党とマスコミそして一部の官僚が何とかして安倍首相を引きずり下ろそうとさまざまな小細工をしていることが情けない。
上記のようにアメリカがあまり頼りにならない一方、中国はどんどん覇権を具現化するために動いている昨今、日本に対するアジア諸国の期待と、日本が持っている潜在的な国力に合った行動をするために安倍首相のような強いリーダーが日本だけではなくアジア地域全体の安全と繁栄のために安定政権を維持することを望んでいる。
もう一人アジアで期待されているリーダーはインドのモディ首相である。6月下旬トランプ大統領とアメリカで初の首脳会議が予定されている。安倍首相とトランプ大統領は個人的には良い信頼関係を構築していると言われる。またモディ首相と安倍首相の関係も極めて良好だ。もしトランプ大統領とモディ首相の波長が合えば、今後モディ首相と安倍首相が逆にトランプ大統領を上手に誘導し、グレートアメリカの再現によって世界の平和と発展に寄与し、特定の国の覇権も阻止できるであろう。