統合と分散がせめぎ合う21世紀
相互依存高まるが対立も
両者を調和する方法工夫を
21世紀の初頭に当たる今日、交通・通信機関の目覚ましい発達と、そのグローバル化とともに、ヒト、モノ、カネ、情報の巨大な流れが国境を越えて激しく流動し、世界はますます相互依存度を高めている。
現に、盛んな国際貿易や国際金融、多国籍企業の活躍などによる経済のグローバル化は、市場のグローバル化をもたらした。急速な勢いで進展し続ける高度情報化と経済依存の高まりによって、今日の地球は縮小し、世界はすでに合一化しつつあると言える。地球の単一化のもとで、一つの地球文明が生成しつつあるというのが、21世紀初頭の文明史的な位置である。
地域統合の面から見ても、例えば、経済統合から政治統合に向かっていた欧州連合(EU)は、自ら生み出した近代的な国民国家の枠組みを廃棄しようとする巨大な実験を行ってきた。北アメリカ大陸も、アメリカを中心とした自由貿易圏を形成し、アジア諸国も、経済を中心とした相互依存度を急速に高めてきていた。
しかし、今日進展しつつあるこの地域統合は、逆に、域内あるいは地域間の対立を激化させ、相互依存を後退させる危険性も持っている。特に、各国の経済競争力が弱まると、保護主義が台頭してくる。昨年から今年の世界情勢をみると、その傾向が顕著に現れてきたように思われる。
例えば、イギリスは、昨年EUからの離脱を決定し、その交渉が開始されている。イスラム国のテロに怯(おび)えるフランスやドイツでは右派が台頭、シリア難民や移民の流入排除に走り、イタリアでは逆に左派が台頭、それぞれ、EUからの離脱の方向を主張している。EUの崩壊さえ予測されているほどである。
他方、アメリカでも、トランプ大統領が誕生、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を宣言、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉にも入り、メキシコからの輸入品に高関税(国境税)をかけるとも言っている。さらに、中国や日本との貿易不均衡是正を、重要課題に掲げている。トランプ大統領のアメリカ第一主義、保護主義的主張によって、世界貿易機関(WTO)の自由貿易の原則さえ崩壊の瀬戸際に立っているとも言える。
気候変動への行動を決めたパリ協定からも離脱しようとしているところをみれば、グローバリズムを推進してきたアメリカ自身が、グローバリズムから離脱しようとしているようにみえる。
さらに、また、20世紀末以来のことだが、この地球上では民族主義の波が急速に広がり、各民族の自立の要求や宗教の復権の動きによって、各地で多くの紛争や衝突、戦争が起き、民族間の殺戮(さつりく)さえ繰り返されてきている。これら各民族が自己主張し、分離独立を限りなく主張していくとすれば、世界は分裂・分散の方向にも向かっていると言わねばならない。民族や宗教に根差す相互不信からくるさまざまな闘争によって、21世紀の地球文明は揺さぶられ続けるであろう。
中国の動向も問題である。中国は、歴史的に、独自の文明を誇る唯一無比の大国という自信を持ってきたが、ここ20年、経済的・軍事的にも力をつけてきたために、日米欧3極体制を打破する挑戦者となってきた。中東の「イスラム国」(IS)の動きも、反米・反ヨーロッパの立場を取り、テロリズムによる戦争を仕掛けている。世界は、まるで、ジグソーパズルのパーツがばらばらになっていくように、分裂・分散に向かっているように見える。
しかし、地球環境問題一つをとっても、大気汚染物質は国境を越えて地球大的に広がり、地球環境の破壊は、地球規模の広がりを見せている。さらに、国家間紛争や民族紛争の調停、テロ活動や国際犯罪の抑止など、国際的な安全保障や危機管理、南の貧困問題、人口爆発、難民の流出、防疫、国際的な税逃れの規制など、地球的規模で問題の解決に当たらねばならない課題が山積している。これは、逆に、世界の合一化を促進させる方向に向かっていると言える。
21世紀の世界には、一方では、新しい統合の方向に向かう傾向が見えると同時に、他方では、分散の方向に向かう傾向も見える。世界史の現在は、統合と分散、求心力と遠心力の相反する二つの力の引き合いの中にあると言える。統合が逆に分散を呼び起こし、分散が逆に統合を要請してくる。
とすれば、われわれは、極端な特殊主義による孤立でもなく、極端な普遍主義による統一でもなく、その両者の調和を取って生きていく方法を工夫する以外にない。21世紀の世界史は、統合と分散、普遍と特殊のせめぎ合いの中にある。われわれは、このせめぎ合いの中を柔軟に生きていく必要がある。
(こばやし・みちのり)