トランプは我々の大統領なのだ
エルドリッヂ研究所代表・政治学博士 ロバート・D・エルドリッヂ
米国民は彼を支え教育を
党派超え再度国に忠誠誓おう
ドナルド・トランプ氏は1月20日、ワシントンDCで開かれる就任式をもってアメリカ合衆国の第45代大統領に就任する。
政治家ではないニューヨーク出身のトランプ氏は昨年7月の共和党大会で、同党の大統領候補に正式に選ばれ、11月8日の大統領選挙で民主党候補のヒラリー・クリントン氏を破って当選した。12月19日、選挙人投票で過半数を獲得したことが確定し、正式に次期大統領に決まった。皮肉なことに、クリントン氏は得票総数で上回ったにもかかわらず敗北した。これは米国の歴史で5回目、21世紀の5回の大統領選で2回目の出来事だ。
この結果は、間接的に大統領を選ぶ選挙投票制度の是非について大きな論争を招いている。230年前の1787年に導入したこの制度は、幾つかの人口の多い州が大きな影響を与え過ぎないようにするためであると同時に、無責任な大衆迎合主義者が選ばれないようにするためである。それでも、538人の選挙人は一般投票を反映する傾向にある。だが、各州で大きな人口差があるため、今回は深刻な矛盾が生じた。
読者はご存じだと思うが10月18日付の本欄で米大統領選について論述し、米国における2大政党制の問題点を詳細に指摘した。大統領選では実際、4人の候補者がいたが、大手メディアは2人についてのみ報道した。2大政党は小政党のことを国民に知らせないようにしていた。このこと一つをとっても今回の選挙は大問題だった。
筆者の考えでは、極端に不人気なクリントン氏が民主党のエリートによって候補者に選ばれた7月の時点で選挙結果は決まっていたと思っている。多くの一般党員はこの選択に嫌気が差していた。彼女では大衆迎合主義者のトランプ氏には勝てないと思った。彼らはそれ以上に、民主党全国委員会が中立であることを忘れ、予備選挙でバーニー・サンダース氏よりもクリントン氏を応援したことに不満を抱いている。党員の約半数は大統領選で他の候補に投票するか、棄権するという方法を選んだ。言い換えると、クリントン氏は完全に正当性を失った。この時点で全有権者の約75%の支持を得ることができず、敗北した。
こうした分析があったからこそ、筆者は、メディアや日米両政府とは違い、この選挙結果に驚かなかった。だからといって、筆者はトランプ氏に投票したわけではない。打算ではなく良心に従い、第3の政党の候補に投票した。
しかし、これで私の国民としての義務が終わったわけではない。投票行動はプロセスの一つにすぎないからだ。投票する前に候補者や国家が直面している課題についての知識を得ることは、選挙期間だけでなく、常に重要なことだ。しかも、米国の民主主義を建国の父たちが意図し、近代市民社会が要求するように今後も機能させるには、新大統領の下で起きることを細部まで追跡し、情報を得、関与し、必要であれば意見をはっきりと言うことも非常に重要なことだ。
従って、我々アメリカ人は、党派の立場を捨てて、一つの国家としての合衆国に忠誠を改めて誓うことが大切である。言い換えれば、政党への帰属意識を取り除き、再び無党派のアメリカの国民としての意識を持つ必要がある。
ともかく、トランプ氏は間もなく私たちアメリカ人の大統領になる。大統領は特定のグループではなく、国民全体に仕えるはずなのだから、米国民は国内に存在するあらゆる観点や課題について彼を支え、助け、導き、教育する責務がある。「私はあなたと共にある」というトランプ氏のスローガンを成し遂げることができるよう、大統領を信頼しなければいけない。
ところがトランプ氏は既に、国内外の指導者との会合、閣僚や補佐官らの選定について多くの間違いを犯している。個人財務処理についても問題があり、利害衝突、収賄と判断されれば弾劾を免れないものがある。公民としての重要な教訓を教えなければならない。すなわち、米国では法に勝る人はいない。それは大統領であっても同じだ。
もちろん彼が間違った時は、すぐに修正できるように大統領およびその政策に異議を申し立てる必要がある。
しかし、私たちは彼が失敗することを望んではいけない。トランプ氏は私たちのパイロットであり、船頭であり、ドライバーだ。もし、事故に遭えば国全体が失敗することになる。彼の大統領としての成功は国家としての成功になるのであるが故、私たち国民は彼を支えなければならない。
残念ながら「トランプは私の大統領ではない」と言い続ける多くのアメリカ人がいる。筆者は彼らに「好きであろうとなかろうと、彼は確かに私たちの大統領なのだ」と訴え、彼を支え、教育すべきだという説明を繰り返している。そうしなければ、米国民として失敗するだけでなく、国際社会が米国をとても信頼しているが故、世界の一員としても失敗することになる。筆者は安定し、経験があり、長期政権を担う安倍晋三首相ら日本のリーダーにも米国新政権を指導する手助けをするよう呼び掛けたい。





