「健康長寿」を保つ生活術

根本 和雄3メンタルヘルスカウンセラー 根本 和雄

利他で自己執着を減らす
日々の小さな感動忘れずに

 わが国において80歳の長寿者は約1000万人、100歳以上の「百寿者」は6万人以上と推定され紛れも無く「超高齢社会」の昨今である。

 そこで健康長寿を達成する諸要因を考察しながら、「掛け替えの無い人生」を送る生活術について述べてみたいと思う。

 初めに、現代人を脅かしている「五大老化現象」を直視してみたいと思う。

 一、血管が脆(もろ)くなり血流の停滞化現象

 二、腸内が汚染されて「腸原病」の増加現象

 三、骨の老化で「骨粗鬆(そしょう)症」の増加現象

 四、脳の退化による「認知症」の増加現象

 五、目標・希望の喪失で「精神的失調化」現象

 これらを見詰め直し、それぞれを改善することが重要ではなかろうか。

 第一に「血管年齢」を若く保つためには、バランスのある食生活、適度な運動、そして休養と適切な睡眠を保つこと。“人は血管と共に老化する”とイギリスの臨床医W・オスラー教授は語っている。

 第二は、「腸管年齢」を健やかに維持して、免疫力を保つこと。それには、腸を冷やさずに常に温めること。“腸の腐敗が寿命を短縮する”とロシアの生理学者・メチニコフは『不老長寿論』(1908年)で述べている。

 第三は、適度な身体運動で体を健やかに保ちつつ食生活にも十分気を付けること。

 第四は、脳を活性化し「認知症」を防ぐこと。“脳の老化は好奇心を失う”ことから始まるという。特に「朝食」をゆっくりとよく噛(か)んで美味(おい)しく食べること。

 第五には、過ぎたことに捉われず、明日に希望を託しつつ「案配よく」融通性のある生き方を常に心掛けたいものである。

 さて、これまでの国内外の調査・研究で80歳以上の長寿者には、幾つかの共通点が明らかにされている。それについて具体的に述べてみたいと思う(参照・広瀬信義著『人生は80歳から』2015年)。

 <長生きする人の食生活とは> 食欲旺盛でしっかりとよく噛んで食べていること、伝統的な日本食中心で栄養のバランスがよく偏食はなく、食事を万遍なく楽しく食べていること。

 <長生きする人の性格とは> 女性では、外向性・開放性・誠実性が高く、活動的で社交性があり意志が強く依存心が少ない傾向が見られる。男性では、開放性が高く、他人への依存心が少なくマイペースのタイプが多く好奇心が旺盛な人が多い(なお、アメリカでの研究では「誠実性」<Conscientiousness>が挙げられている)。

 <長生きする人の生活スタイルとは> ストレスを上手に解消している。加えて、上手に「諦め」を受け入れていること。「諦め」は、とかくネガティブな感情になりやすいが、それを上手に受け入れることによって自然に建設的(ポジティブ)な状態を保っている。

 さて、スウェーデンの社会学者・トルンスタムによれば、高齢期になるにつれて「老年的超越」が生じてくるという。この「老年的超越」とは、“物質主義的で合理的な世界観から、宇宙的・超越的かつ非合理的な世界観へと変化する”という。

 具体的には、“自己中心性に基づく動機づけから、利他性に基づく動機づけへと移行する”という。そして、全てを乗り超えるということではなく、受け入れるという価値観へと変化する。これは、自己への執着が次第に低下しつつ、自分の心身の両面へのこだわる気持ちが薄れていくということでもある。

 それは同時に、宇宙的意識が高まりつつあり、生命の神秘を感じ、次第に死は一つの通過点と考えるようになる。そのことによって、社会的地位への執着が減少するとともに、財産や金銭への執着も徐々に低下するのである。

 このことによって、本来の自己に帰り無為自然の捉われない人生へと歩むのではなかろうか。

 最後に、日々を味わい深く過ごす心得について述べてみよう。

 まず、今、一番何が大事であるかという「今」をしっかりと見詰め直すことではなかろうか。そのことによって、今の自分の人生に意味を見いだすことができると思う。

 次に、日常の小さなことに喜びを感じ感動を忘れずに一日一日を丁寧に生きることの大切さである。ストレス学説を唱えたH・セリエは“小さな日々の感動こそが、ストレスを最もよく解消してくれる”と語っている。

 つまり、日々の暮らしの中でのふとした小さな「感動」を大切にすることこそストレスの上手な対処法ではないかと思うのである。

 さらに、「前後際断(さいだん)」ということ。つまり、前(過去)に捉われず、後(のち)のこと、これからについて思い煩わずに、「今」を「只管(ひたすら)」生きることではなかろうか。

 最後に、次の言葉を大切にしたいと思う。

 “その日その日を人生の最初の一日、そして最後の一日であるかのように生活する”こと。

(エール大学・W・フェルプス教授)

(ねもと・かずお)