人口減と人口構成の悪化

尾関 通允経済ジャーナリスト 尾関 通允

日本経済の先行き懸念
容易でない人口増勢への転換

 日本の総人口が漸減基調を改めず人口構成も望ましくない状況にあることは、おそらく誰しもが認めるだろう。ところが、人口減少と人口構成の悪化が日本の経済運営に重大で深刻な悪影響を既に及ぼしつつあること、人口問題以外の経済運営に関わる内外の諸条件に変化がないと仮定した場合に日本の経済社会が直面せざるを得ない容易ならざる事態、そこからの脱出ないし難問の解決・克服が困難を極めるだろうことに真剣に目を向けている政治家が何人いるだろうか。

 簡単な計算を試みよう。国民1人当たりの食糧・衣類などの消費額の平均値はさほど変化するものではないから、国の総人口が漸減傾向をたどるなら、国全体の日常消費財の購入・消費は減らざるを得ない。消費といえば、事業上の打ち合わせ(対日投資を含めなど)や観光旅行客などの訪日は、日本の経済運営にとって、好材料には違いない。しかし、半面、日本人の海外旅行や日本企業の海外進出に伴う海外での邦人の消費額も少なくはない。厳格な数字を入手することは筆者には不可能ながら、あえて推察すれば、邦人の海外での消費額の方が、外国人の日本での上回っている可能性が大きかろう。そこで、両者がほぼ同額と仮定すれば、この国の人口減少は、個人消費のひどく厄介な減少要因にならざるを得ないし、現にそうなっているものと判断するのが至当だろう。

 それはさておき、国内に目を向けよう。国内では、人口減と人口構成の悪化の影響が少しずつだが表面化しつつある。個人個人の消費する額は大きくは変わらないものの人口減のため国全体の消費需要の減少基調が続き、そのため、食糧・飲料・衣料などの売れ行きが、全体として冴(さ)えない。そのせいで、これら消費財の販売競争が厳しい。展開する店舗網の立地条件の選択、消費者の意欲を誘う商品・サービスの新規開発や仕入れ、さらに人口減少地域からの店舗の撤収を含む店舗網の再配置、同業社間の提携(共同仕入れによる販売コストの節約など)ほか、“生き残り”を懸けての企業努力が、徐々にながら進んでいるし、今後とも続くだろう。その“ハネ返り”は、当然のことに人口の少ない地域の居住者にはマイナスにならざるを得まい。欲しい日用消費財の入手が不便になること必至に違いない。

 視点を変える。日本に現存する大学数は極めて多い。正確な数字は筆者には入手できないが、約800はあるとの説も聞く。しかし、高学歴時代といえば、聞こえはいいようなものの、いずれは大学も整理の時代が到来するのではないだろうか。そうした予測の当否はともかく、大学生や大学卒業者の中に質の高低差が広がることは必然だろう。

 だが、以上に述べてきた人口減と人口構成の悪化がもたらす最も深刻かつ厄介な問題は、将来の国家運営の根本に関わる財政へのマイナス効果ではないか。

 周知のように、地方活性化にも、現政権は政策の力点を置いている。だが、率直なところ、政策効果を期待できる対象は、ごく限定的ではないだろうか。いわゆる“地域興し”の面でも、それぞれの地区地域での現役世代(実際に働ける人口)の数の制約を軽視できない。

 人口漸減は個人消費の減少を誘発すること必至だが、今日ないしこれからの日本にとってのもう一つの難問は、労働力人口の漸減基調とは逆に高齢者人口が漸増している現況である。端的に言えば、健康で安楽に暮らせる高齢者が多い上に、経済を支える現役世代に属する人口が緩慢ながら漸増している社会―そういう社会がいい社会=素晴らしい社会と言えるだろう。が、日本の現況は明らかにそれとは程遠い。

 経済社会を支える労働人口が明らかに減ってきており、何か有効な政策手段を打ち出しても人口漸減から人口の緩やかな増勢への転換は、容易ではないし長い歳月を要する。とすれば、今後それまでの経済運営ひいては景気動向は海外経済の推移いかんに懸からざるを得まい。

 「1億総活躍社会の実現を目指す」といえば聞こえはいい。だが、そんなことで乗り切れるほど現在の経済運営の環境条件は甘くはない。

 保育所を増設して子供さんを預かり、母親の労働力をもっと活用しようと政府は懸命になっている。筆者の視点からすれば、これも見当違い。子育てが終わったら母親も社会の第一線で大いに働くがよかろう。しかし、そうなるまでは、子育て第一とすべきではないか。併せて、早期の結婚の奨励にも、大いに力を入れたい。人口問題へのまともな取り組みが、そこから始まろう。

 名前を挙げることは遠慮しておくが、いつだったか「企業はこれ以上に内部留保を増やして一体どうするんだ」と息巻いた閣僚がいる。「内部留保よりも賃上げに回して消費増と景況改善に役立ててほしい」との狙いからには違いないが、内部留保の手厚い企業ほど不況や自社製品の売れ行きが鈍った場合の抵抗力が強い。すなわち、人口減と人口構成の悪化時代の自己防衛の意義ないし備えの意味になる―そう筆者は解釈している。

(おぜき・みちのぶ)