海軍合同演習に見る露中関係

乾 一宇 コピーロシア研究家 乾 一宇

演習海域は持ち回り
マンネリ化で規模も縮小

 ロシアと中国は、「戦略的パートナーシップ」関係にあり、世界の多極化を推進、国際社会に新秩序を形成したいことで一致し、しかも「力」を全面に押し出し行動している。露中は互いに利害関係を表に出さず、緊密さのアピールにおいては積極的である。

 その一つが、9月の海軍合同演習の「南シナ海」での実施である。

2012年から始まった露中海軍合同演習「海上連携」の昨15年までについては、昨年9月8日の本欄で採り上げた。

 今年は、9月12~19日の間、中国海域で実施した。ロシアから艦船5隻(対潜駆逐艦2隻、揚陸艦、補給給油艦、海洋曳船各1隻)、海軍歩兵1個分隊が参加した。中国側からは、水上艦船8隻、潜水艦2隻、航空機・艦載ヘリ21機、海軍歩兵250人である。水上艦艇は、大型ミサイル駆逐艦2隻、フリゲート艦3隻、大型補給艦1隻、揚陸艦2隻、所属では南海艦隊が主力で5隻、東海艦隊2隻、北海艦隊1隻である。

 ロシア、中国とも、対外的に思わせ振りの報道をしているが、南シナ海で演習を実施したことに意義を見いだし、他国はそれに乗って「南シナ海で初めての合同演習」と報道した。

 そもそも、演習海域はロシアと中国の持ち回りである。初回は中国で、翌年はロシアと1年ごとに変わる。中国での場合、12年は北海艦隊(司令部青島)の黄海、14年は東海艦隊(司令部寧波)の東シナ海北部、そして16年は南海艦隊(司令部湛江)の湛江東方沖である。ここは南シナ海に属するが、海は広い。帰属問題で争っている南沙諸島とは約1500㌔も離れている。中国近海で行われる露中海軍合同演習は、中国3個艦隊を北から順次実施してきて、16年が南海艦隊海域の南シナ海であったことである。それを、露中は対米牽制(けんせい)に利用、しかも西側が「南シナ海で初めて」を強調してくれるものだから労せずして宣伝できた。

 南海艦隊司令部湛江近くの海南島は、中国海軍の潜水艦基地として整備、また同艦隊は台湾を主とする上陸作戦の任務も担う。

 対外宣伝に比し、演習規模は、参加兵力、艦艇、航空機など昨年の方が大きい。対外的影響を考慮してというより、露中の本演習に対する姿勢がマンネリ化、惰性化しているようにもみえる。

 ロシアは、これまでの合同演習に太平洋艦隊旗艦であるミサイル巡洋艦「ワリャーグ」を常に参加させてきたが、今回は主要艦艇は駆逐艦2隻のみの参加で、腰が引けている。

 中国も、水上艦艇8隻と、決して多くはない。ただ、最新鋭の大型ミサイル駆逐艦052B「広州」(南海艦隊)、052C型「鄭州」(東海艦隊)の2隻が参加している。他はフリゲート3隻が戦闘艦艇である。1996年3月の台湾総統の初めての選挙に絡んで中国は台湾近海・領海への弾道弾発射、それに反応して米国は空母などを台湾海域へ派遣、軍事的に圧倒された江沢民総書記(当時)は、同年末李鵬首相(同)をモスクワに向かわせ、対潜兵器と長射程艦対艦ミサイル装備のソブレメンヌイ級駆逐艦を1隻を購入した。052型は、このソブレメンヌイ級の中国版である。052C型「鄭州」は外見が米海軍のイージス艦に似ているが、これにはロシア製地対空ミサイル「S300」の艦載版中国製「紅旗9」を搭載している。

 露中合同演習を始めた時から、中国海軍は対潜作戦を主要演練項目にしている。今回ロシアの駆逐艦2隻と中国南海艦隊の駆逐艦「広州」とフリゲート3隻が合同対潜部隊を編成し、合同運用を訓練した。対潜作戦には、これら艦艇と衛星、対潜哨戒機、早期警戒機、艦載ヘリなどの情報共有が必要で、「データ通信リンク」をどうしているのか、関心のあるところだ。

 また、人民網は、島嶼(とうしょ)奪還の上陸演習を大きく報じ、西側もそれに乗っている。だが、上陸演習では昨年の日本海海域での上陸作戦の方が規模が大きく、内容も多彩であった。例えば、22隻の艦艇・支援船、20機の航空機・ヘリが参加、空挺部隊80人が降下、水陸両用装甲車など35両と海軍歩兵500人が上陸と、先に述べた今回の演習参加艦船、航空機、海軍歩兵と比べもののない規模、内容であった。それが、本演習での上陸行動は「初めての合同立体島奪還と支配」と、昨年のことを忘れたかのような言葉が踊る表現となる。宣伝はうまく、西側は南シナ海での上陸行動とあおる。だが。ロシアの上陸作戦への参加は、ミサイル駆逐艦、揚陸艦各1隻、海軍歩兵1個分隊(10人程度)であり、中国も東海艦隊のフリゲート「大慶」・揚陸艦「玉山」および海軍歩兵250人と小規模である。しかも南シナ海で行動する南海艦隊の艦艇・部隊ではない。

“契約結婚”と揶揄(やゆ)される露中関係は、うたい文句よりは、その中身をしっかりと見ることが肝要である。今回の“南シナ海で初めて”の海軍合同演習は、実施場所は持ち回りで、中国での合同演習3回目に当たる南海艦隊の司令部がある湛江東方海域での演習にすぎない。規模も小さいもので、上陸作戦もその発表は誇張したものである。政治的な友好・連携を示し、他国がそれを大きく報道してくれれば良しとするものであった。

(いぬい・いちう)