熊本地震から学ぶ災害教訓

拓殖大学地方政治行政研究所附属防災教育研究センター副センター長 濱口 和久

濱口 和久家具類の固定化が必要

市町村施設の耐震化を急げ

最大震度7の地震が2度も起きる

 4月14日午後9時26分ごろ、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード(M)6・5の前震(震度7)が起きた。16日午前1時25分ごろには、M7・3の本震(震度7)が起きた。余震は震度1以上が1000回を超えている。気象庁は熊本地方を襲った地震を「平成28年熊本地震」と命名した。

 日本列島は昔から地震列島と呼ばれてきたが、九州地方で震度7の地震を記録するのは観測史初めてであり、日本国内で震度7を記録したのは、平成23(2011)年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)以来となる。

 熊本をはじめ九州で暮らす人は、火山(阿蘇、桜島、雲仙など)の噴火、梅雨の時期の長雨や台風による集中豪雨がもたらす災害については、たびたび経験し慣れっこのところもあった。だが、今回のように被災する規模の地震に遭うとは、ほとんどの人が想像していなかっただろう。一時は熊本、大分の2県で最大約20万人が避難した。建物の被害も深刻だ。熊本のシンボルである熊本城も天守や石垣に大きな被害が出た。完全な修復には10年以上かかるともいわれている。

 東日本大震災から今年3月で丸5年が過ぎた。東北の被災地以外では「震災の風化」が進むなか、熊本地震が起きたことにより、「日本中どこにいても、被災する地震に遭う可能性がある」という認識を日本人の多くが持ったに違いない。

教訓は活かされたのか

 21年前の平成7(1995)1月17日に起きた兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)では、死者・行方不明者が6437人を数えたが、そのうち建物の倒壊や家具の転倒による圧死・窒息死で約8割の人が亡くなっている。

 熊本地震における熊本県内で全半壊した建物は1万5千棟を超える(5月1日時点)。そして、阪神・淡路大震災と同様に、地震による直接的な犠牲者やケガ人の多くが、倒壊した建物や家具の下敷きとなった。

 地震から自分の命を守るためには、建物(個人宅)の耐震化とあわせて家具の転倒防止対策が重要になってくる。会社などのオフィースなどでは、複写機(コピー機)なども地震のときは人間に凶器となって襲いかかってくる。オフィースの事務機器や棚などの固定も絶対に必要だ。

 だが、熊本では大きな地震は起きないという意識から、個人宅も会社も、ほとんど家具の転倒防止対策がなされていなかったことが明らかになった。

 一方、熊本地震では、新しい耐震基準で建設されたマンションなどでも全半壊した建物があった。完成時には震度7にも耐えるように建設されていても、築年数が経つにつれて強度が低下した可能性もある。建物管理のコストが少々高くなっても、定期的な検査や診断、早め早めの補修・修繕をおこなう必要性があることを熊本地震から私たちは学ぶことができた。

 毎回、避難所で問題になるのが、プライバシーの確保や女性の着替える場所、赤ちゃんに授乳をする場所がないことだ。加えて、災害時には必ず弱い立場の人にシワ寄せがくる。熊本地震でも高齢者や障害者に対するケアが問題となった。避難所以外では、車の中での避難生活によるエコノミークラス症候群になる人も出た。また、大量に送られてくる支援物資を各避難所に送るための仕分けや配送するオペレーションが機能せず、支援物資が1カ所に山積みのままの状態となった。

「天災」は人間の力では防ぐことができないが、その後の対応を間違えると「天災」は「人災」となり、被害はさらに拡大する。被災者にもさらなる苦痛を与え、震災関連死で亡くなる人が必ず出るが、熊本地震でも同じことが繰り返された。

防災拠点の機能喪失

 東日本大震災では、防災拠点となるべき庁舎が津波により被害を受け、機能喪失に陥ったことは記憶に新しい。宮城県南三陸町役場では、多くの職員が津波の犠牲となった。熊本地震では、職員がいない時間帯だったため犠牲者は出なかったが、激しい揺れにより県内の複数の庁舎が使用停止や倒壊の恐れがあるとして立ち入り禁止となった。

 医療機関でも、熊本市の防災拠点施設に指定されている熊本市立病院で、天井の一部崩壊などがあり、「倒壊の恐れがある」として使用禁止となり、入院患者約300人が他の病院に搬送される事態となった。

 本来、庁舎や病院は災害時の防災拠点を担う施設である。施設の機能喪失は、その後の震災対応に大きな支障をきたすことになる。

 防災拠点となる公共施設の耐震化は、総務省消防庁の平成26(2014)年度末現在の調査によると、全国の公的施設約19万棟のうち、88・33%が耐震基準を満たしているが、市町村が管理する庁舎や病院などは74・8%にとどまっている。

 市町村の場合、財政的な問題から施設の耐震化を先送りしてきた自治体もあるが、熊本地震の二の舞にならないよう、防災拠点となる公共施設の耐震化を急ぐべきだ。国も市町村への財政支援を行い、耐震化による国土強靭化を目指すべきである。

(はまぐち・かずひさ)