陸前高田と農林漁業の復興

小松 正之東京財団上席研究員 小松 正之

自然活用し産業基盤に

災害に強い土地・街作りを

 東日本大震災と陸前高田の被害

 東日本大震災はマグニチュードは9・0で死者・行方不明者1万8456人(警察庁)である。

 陸前高田市の死者・行方不明者は1771人で岩手県では最も多い。人口に占める割合も10・64%で石巻市の3・31%に比べてはるかに大きい(平成26年7月陸前高田市報告書)。

 高田町に被害が大きい。死者・行方不明者1165人である。漁村地区の広田町は58名であった。高田町の平野部では「津波は来ないと思った」人が多い。教育と情報伝承が最も人命の保護には重要なことがわかる。

 世界の地震地帯では津波は付き物である。3000年に三陸地方で7回起こり、最近の120年で3回も起こった。人間も自然の生態系の一部である。生態系と調和してこそ農林漁業・関連産業の日々の生産と生活がある。自然を守り恵みを享受する。広田湾漁業には最大河川である気仙川やその河口域の干潟と汽水湖の古川沼の環境は大切である。市内の80%を占める森林も防災と栄養の供給に重要である。

 高台への移転は、土砂災害や火災対策などが必要になる。昭和の津波の後に岩手県で3000戸が山野を切り開いて高台移転をしたが、「急斜面の危険地域」が増加した。陸前高田の高台移転と市街地の盛り土約10㍍の計画は、自然の山肌を崩し、保水力と酸素供給力のある森林を破壊する。山が壊される。道路建設で河川がせき止められ、天井川になり、汚染水が溜まる。12・5㍍の防潮堤も東日本大震災の14・5㍍の高さは防げない。

 高田松原を壊し、三日市の干潟や浅瀬を破壊し、海洋生態系を壊し、生活の糧である第1次産業の基盤を弱めた。箱モノに頼り、環境、産業と生産基盤を破壊し陸前高田の経済は更に衰弱する。時間がたてばたつほど、この街の将来に対する期待が持てなくなる。

 産業政策はないに等しい。陸前高田市の産業は林業と水産業であり、自然と生態系を活用した産業である。私は高田松原や古川沼に恵まれた気仙川の流域と広田湾の生態系を対象に「気仙川・広田湾の総合生態系の基本調査」を最近行っている。

 米チェサピーク湾他の研究

 豪グレートバリア・リーフとサンゴ礁との関係や、米モントレー湾の回復とチェサピーク湾の再生取り組みを訪ねて、山、川と海の関係の研究を目指している。

 モントレー湾にはジャイアント・ケルプ(オオウキモ)が鬱蒼(うっそう)と茂り、ラッコが泳ぐ。ノーベル賞受賞者スタインベック氏など多くの人々の1930年代からの自然回復努力が貢献した。一度、乱獲や汚染で崩壊したモントレー湾の生態系の成功が、世界から研究者や観光客を呼び寄せる。モントレー水族館は世界的に有名である。

 チェサピーク湾に面するスミソニアン環境研究センター(SERC)は温暖化やハリケーンなどに備えての海岸線の保護研究をしており、SERCが所有する土地約1300㌶で自然修復の実験、陸上植生と海域との関係調査も実施している。

 垂直護岸は禁止して、砂などを活用したソフトランディングや海岸に植物を植える「生きた海岸(Living Shore)」の建設を進め、防災する。それらは波の衝撃を吸収し生物の多様性の維持や亀の産卵にも役に立つ。

 自然・生態系が産業の源

 このように外国は自然を活用・利用し、災害に強い土地・街づくりをしている。自然の研究・調査そして保護活動と自然との交流を産業の基盤としている。

 日本には経済価値がない物は、ほとんど研究・調査もない。海洋学、化学、生物などの調査研究も少ない。日本は大局的に生態系や自然を研究も調査もしない。基本的かつ本質的に解明する視点が、欧米の科学者と社会学者のようには養われていない。

 これを陸前高田から直したいと思う。そして、「三陸地方の自然と災害にあった歴史と科学的な過去を資源」として自然を対象にした基礎と応用研究、近代的な学術研究と震災と津波の影響を研究する場とならないか。外国の研究所に協力を仰ぎ国際的視点も入れる。自然は観光と交流の対象にもなろう。

 閉鎖的な養殖業の制度

 ところで、東日本大震災後、宮城県の村井知事は「企業に漁業権を与えその力を借りて復興を果したい」と述べ、水産業復興特区法(平成23年12年)を成立させた。養殖の漁業権優先順位を第1位の漁協と、漁業者が7名以上参加する漁業法人を同列に扱うとするものだ。漁業者と株式会社仙台水産から構成される石巻に設立された漁業法人に対して、宮城県は漁業権を与えた。

 内容は経済性を制約するものだ。桃浦の牡蠣会社の経営が順調にいっているが、宮城県漁協は、震災後15程度設立された漁業生産組合等の法人に特区の申請を自粛するように圧力をかけ続けたと言われる。また、村井知事にも桃浦に続く事例を作り上げたいとの意欲が見えない。5周年を機に「特区法の内容を抜本的に変更し、経営能力と技術力を基準とすること」にして、三陸地方の漁業・養殖業振興と地方創生を推進することだ。

(こまつ・まさゆき)