専守防衛では国防成立せず
一方的攻撃で被害甚大
日米同盟強化した安保法制
安保法制に反対の護憲派や前回触れたように東京、朝日紙上の「新9条」提案者は、集団的自衛権の行使に反対である。個別的自衛権には専守防衛厳守を条件に承認している。「専守防衛」とは、相手から武力攻撃を受けた後に、防衛力を行使し、その対応も自衛のための必要最小限度に止め、防衛上必要でも相手国の基地を攻撃するような戦略的攻勢を取らず、自国領土及びその周辺で作戦するとした我が国独特の防衛戦略の姿勢を言い、我が国防衛の基本的方針である
第2次世界大戦後の兵器技術の発達は著しく、特に航空機、長距離弾道ミサイル等の攻撃的兵器の威力は驚異的である。戦闘機の速度は音速を超え、ステルス性をも付加され、爆撃機の搭載量は31㌧、行動半径1万6000㌔㍍、また搭載する巡航ミサイルの射程距離は1500㌔㍍以上にも及ぶ。中国は、中・短距離弾道ミサイルに加え、前述の巡航ミサイルや核兵器搭載可能な戦略爆撃機を保有する。戦闘機は、ロシアの支援を受け、第4世代戦闘機である。一方、我が国の防空組織も進歩してはいるが、過去の戦爆連合の空襲に対する要撃に比べて、複雑、至難である。
戦勝の要件は、要時、要点に兵力を集中し、優勢を得ることである。陸上作戦は、防禦により援軍の待機や、他方面での兵力を増強するため、地形、地物を利用し、兵力を補強できる。しかし、航空作戦では、防禦(防空)にはこれらの利点はない。航空機等は空中を、自由に、高速で機動できる砲兵とみなし得よう。
攻者は自主的に攻撃の時期、重点、方法等を策定できる。一方、被攻撃地域に所在する航空機、対空火器では防禦に限界があり、来襲残存機によって、露出した滑走路、航空機、レーダー等は甚大な被害を受け、基地は修復まで使用不可能となる。また、都市攻撃が回避される保証はない。
したがって、重要な基地、都市等を守るため、濃密な対空火網を構成する必要がある。日本は南北に長く、しかも西は大陸に近接した列島国であり、東は太平洋から空母搭載の艦載機、潜水艦からのミサイル攻撃がある。極言すれば、防空のためには、全国ハリネズミ化(要塞化)のため、高度の技術と資金が必要で、事実不可能であろう。
蜂の駆除は、巣籠りの時に叩くべきである。航空作戦において、専守防衛では勝利は期待できない。近代戦は制空権の争奪から開始される。日本侵略には、近海の制海権および制空権の確保が不可欠であるため、航空兵力撃滅戦を敢行するが、そのためには、航空基地の攻撃は不可欠である。
総括して結論は、たとえ個別的自衛権を承認しても、専守防衛では日本の防衛は成立しない。このような愚策が国防戦略の基本でありながら、70年間も平和でありえたのは、日米安保条約による、強力な米軍、特に空、海軍の戦略攻撃力を期待し、米国もそれに応じ、抑止力として機能し得たためである。
昭和53年、「日米防衛協力のための指針」が制定された。同指針に示された作戦構想の要旨は次の通りである。
自衛隊は主として日本の領域及びその周辺海空域において防勢作戦を行い、米軍は自衛隊の行う作戦を支援する。米軍はまた、自衛隊の及ばない機能を補完するための航空作戦を、米空軍部隊は航空自衛隊の行う作戦を支援、特に航空打撃力を有する航空部隊の使用を伴う作戦を含め、侵攻兵力を撃退するための作戦を実施する。
その後、日米防衛協力委員会はしばしば小委員会を行い、平成9年「指針」を見直し、周辺事態においても、より効果的に、信頼性ある日米協力を行うための堅固な基礎を構築した。その作戦構想は基本的には変わらず、次の4項目を追加した。
①日本周辺海域の防衛及び海上交通保護のための作戦
②対日着上陸侵攻に対する作戦
③ゲリラ等の不正規型軍事力潜入に対する作戦
④弾道ミサイル攻撃に対し密接に対応し、米軍は必要な情報提供、必要に応じ打撃力を有する部隊の使用を考慮する
過去30年余を回顧して、日米間の防衛協力は確実に進展し、日米共同訓練も毎年、有効に実施されている。新安保法制は、米国も高く評価し、日米同盟は格段に強化されたと信じる。集団的自衛権は日本にとって命綱と言えよう。
集団的自衛権承認の前提条件として、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使する」と、厳しく抑制されているにも拘わらず、これを否定するのは、「命綱」を切断するに等しい。
冒頭に示した否定意見があるのも、憲法前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意した」と述べ、第2章「戦争の放棄」と軽率に題し、しかも第9条2項「前項の目的を達するため」の芦田修正の真意を無視したためであろう。新安保法制を違憲とした憲法学者こそ改憲運動の先頭に立つべきだ。
(たけだ・ごろう)