国を危うくする反安保世論
日米同盟は日本の命綱
マスコミが法案阻止を煽動
安全保障関連法案は参議院において審議中である。国民の理解を得て、成立することを切望する。しかし、世論は法案に反対が優勢である。戦後、平和教育の偏向が、今日の惨状を招いたといえようか。憲法は、国の独立、繁栄、国民の幸福を図るための基本法である。自衛権(個別的及び集団的)は国の重要な権利であることは国際常識である。しかし、日本国憲法はこれを明確にしていない。
かつて三島由紀夫は、「われわれは戦後の日本が、経済的繁栄にうつつを抜かし、国の大本を忘れ、国民精神を失い、本を正さずして末に走り、その場しのぎと偽善に陥り、自ら魂の空白状態へ落ち込んでゆくのを見た」と述べ、戦後社会への日本国憲法の呪縛について喝破した。一般に国民は、憲法を「平和の神札(しんさつ)」のように尊重するが、熟読してはいまい。日本が戦後70年間も平和であったのは、幸運と日米同盟による米国の強大な軍事力及び精強な自衛隊により、外国の侵略の野望に対し隙を与えぬ抑止力があったためである。過言かもしれないが、今後も米軍事力は日本の命綱ともいえよう。
7月27日付「日経」紙は、内閣不支持率50%、支持率38%で、「現政権で初の逆転」と調査結果を報じている。今後、この「戦争法案反対」の市民運動は高まるであろう。首相は「安保法案への理解不足がこの結果になっていると思う。支持率のために政治をやっているのではない。政策全般をしっかり進めてゆくことにより、信頼を回復したい」と強調した。
衆議院での法案採決を控えていた7月9日、東京新聞は第1面に「憲法学者9割『違憲』」と特別大書し、法案による政府の解釈変更は「立憲主義の危機」に強い懸念を持つとの結論を報じた。調査は全国大学の憲法学教授328人を対象とし、法案の合憲性を尋ねた。回答は204人で、法案を「違憲」としたのは184人(90%)であった。これら多くの学者の教育を受けた学生はもとより、この記事を見た一般読者は、前述のように、憲法を熟知せぬため、多数の憲法学者の高見として、これに雷同し、結果的に、反対運動を助長するであろう。
さらに、同紙は7月24日付特報で「安保法案を覆すためには…世論の高まりを力に」として、一ジャーナリストの「安倍首相は今回の法案の先に改憲、その先に戦争で金もうけする帝国の復活を見据えている」との根拠なき無責任な意見を披露し、法案の成立阻止を煽動している。記事の最後に「デスクメモ」として「七十余年前、市民は竹やりを持たされ、若者は自爆攻撃を命じられた。まるでカルトだ。底には論理より扇情の文化、指導層の無責任があった。…そんな人たちによる安保関連法案なのだ。泣き寝入りする前に覆したい」と述べている。
諺に「鹿を逐(お)う猟師山を見ず」と称し、一事に熱中し、他の大事なことを見落とすことを戒めている。憲法学者の責任は重く、国の命運を左右する。その自覚があるためか、憲法厳守に徹し、憲法の制定経緯、国益、他国憲法との差異等の考察を欠くことはないだろうか。あるいは学会の強い引き締めでもあるのだろうかと考える。
国防用語辞典によれば、福島判決「昭和48年、長沼ナイキ裁判判決関連」において、自衛権と軍事力によらない自衛行動として、危急の侵害に対し警察による排除、民衆が武器を持って抵抗する群民蜂起、侵略国国民の財産没収や国外追放等があげられた。これらは、脅威に対抗できるものではなく、侵略の野望への抑止は期待できない。
筆者は軍事専門であるが、日本国憲法、特に第9条は独善的で、珍奇、しかも自国の独立と平和を阻害するような条文を危惧し、5月本欄に「憲法9条を見直し改正せよ」と題して現憲法の欠陥について意見を述べた。要約すれば次のとおりである。
①日本国憲法は日本降伏後の米国の初期対日方針に基づき、占領軍司令部によって作成され、日本政府は受諾せざるを得なかった。②憲法前文は桃源郷のような他国依存、さらに第9条は「…前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と、非現実的な非武装策を明示。
憲法学者が安保法制を「違憲」とする論は理解できるが、設問に国際情勢の悪化に現憲法で対応の可否を問えば、不回答者数の結果は変わっただろう。メディア、評論家等も、国際情勢の悪化に対し現憲法で有効な侵略抑止の方策を考究すべきである。
昭和21年、憲法発布の直前の帝国議会で、吉田首相は「自衛の名目で多くの侵略戦争が行われた故に、自衛権の行使は認めない」と所信表明をした。当時、日本は米軍占領下にあり、国民は飢え、都市は壊滅状態で、経済復興は最大の課題であり、首相の悲痛な発言となった。
非生産的な防衛の軽視、いわゆる「吉田ドクトリン」により、経済は繁栄したが、反面、国民の「平和ボケ」を助長し、日本周辺の脅威の増加にも無関心で、憲法の主権放棄を看過する独善的、珍奇な平和思想に狎(な)れてはないだろうか。僭越(せんえつ)ながら、国民、特に法案反対者に「読めばわかる『憲法改正』」(梶山茂著)の一読を勧めたい。
(たけだ・ごろう)






