日本孤立化狙う戦略的動向

杉山 蕃元統幕議長 杉山 蕃

宣伝・心理戦に本腰を

日米新指針その後の課題

 前回意見を披露した日米防衛協力の指針の再見直しについては、予定通りの運びとなり、安倍首相の訪米、首脳会談での合意、米両院議員総会での演説、その後の反応等、日米同盟の一層の充実を各国に見せつける事となった。誠に結構な成り行きと考えている。特に安倍総理の演説は極めて好評で、中国・韓国の「歴史修正主義者」とする事前工作にもかかわらず、アジアで最も信頼できる同盟国総理の位置づけを不動のものにした成果は大である。

 今後、新指針に基づき日米当局・制服間で事態に応ずる作戦計画作業が行われ、不測事態の対応がより確実なものとなり、抑止効果が一段と向上すると考えてよい。真に時機を得た施策であった。

 しかし、事成れりとするのは早計であり、我が国を取り巻く環境は生易しいものではない。そもそも最近の紛争の形態を見ると、大きく見て二つに分けて考えられる。一つは反体制勢力にテコ入れし、内紛を生起させ、間接的・直接的に介入し、事実上の支配を達成する従来型のやり方であり、ウクライナ紛争にその典型を見ることができる。中東における過激集団の武装闘争もこれに近い。

 もう一つの形態は、直接的な武闘ではなく、経済、技術、情報、文化といった側面から相手を包囲し、孤立化を図ることにより力を削(そ)ぎ、優位な情勢を作り出して行くやり方であり、今後ますます顕在化していくと思われる。特に、情報化時代、インターネット時代の特徴である容易な広報・宣伝手法を持ったことから、蔓延(まんえん)していくことが懸念される。

 こうして見ると、中国・韓国の、最近とみに激しい我が国への中傷誹謗(ひぼう)の言動は、長期的に見て心理戦・宣伝戦がかなり進んだ状態とみることができる。我が国も国際広報連絡協議会の設置等の対応が行われているが、国の安全保障の見地から一層の努力傾注が必要である。

 韓国の主たる非難対象であった「慰安婦」問題は、発信源であった朝日新聞の誤報公表、全社あげての謝罪等から、その勢いは根拠を失いつつある。雨後の竹の子のように、米国内韓国系市民を中心に立ち上がった「慰安婦像」建立の動きも沈静化すると思われるが、自国内ならいざ知らず、他国内にこのような騒ぎを持ち込む異常さの方が、長期的に見て非難の対象となるであろう。

 先日、朴大統領がユネスコの事務局長に我が国の「明治日本産業革命遺産」の世界遺産登録の提言に反対する旨発言した。これは矛先を慰安婦問題から歴史認識問題に変えて非難を継続する動きと考えられ、確とした対応が必要である。

 中国は「南京事件」を筆頭に、得意の手練手管を用いて、あらゆる方向、あらゆる手段で我が国への非難を続け、追い込む姿勢を強めている。

 南京事件に関して言えば、先月産経新聞1面に南京攻防戦で高崎師団隷下の一線小隊長であった筆者同期生の父君の日記が取り上げられた。戦時召集された父君は、慶応出身、保険会社勤務を経て召集された一般市民の典型である。激戦の雨花門から陥落直後南京城内に入り、この方面で警備にあたった。驚くべきことに、殆ど休養する間もなく、次の前線へ出動する。「残虐行為」を行っている暇など全くない。さらに日記の次の記述が強い印象を受ける。

 すなわち、日本軍前線の部隊は、上級指揮官から「厳正な軍紀」について徹底した指示を受けていた事、比して中国軍は、現地住民に糧食を要求し、応じないと残虐な行為に及んでいた事、日本軍は食料調達に対価を支払ったため、現地住民から歓迎されていた事など日記ならではの記述である。さらに中国兵は、便衣と称する一般人の服装に着替えて潜伏、抵抗、逃亡を図る者が多く、国際法規に違反したレベルの低い軍隊であるとも書かれている。

 この例を見ても分かるとおり、時間とともに事実を証明する証拠品も整ってくることもあり、誇張とも言える中傷には確(しっか)り反論する時期に来ていると考えられる。何れにせよ、世界中隣国同士は仲の悪いのが通例。長い歴史上の確執があるからである。しかし、度を過ぎた中傷非難は、双方にとって何の利益にもならない。ましてやオフロード的な工作により長期的に相手を減殺していく手法が顕著になりつつある現今である。外交・防衛といった正面は勿論、全体的な観点から戦略的動向に対し、確たる対応を講じなければならない時代を迎えている。

 2019ラグビーワールドカップが日本で、そして2020夏季オリンピックが東京で行われる。過去この種のスポーツ祭典開催国は、世界中の視線を集め、多数の外国人を迎え入れ、国の好印象を与えるに有形無形の大きな効果を得てきた。東京、札幌、長野然りである。今回も続けて日本に注目が集まることは間違いない絶好の機会である。特に宣伝戦心理戦に強いとは言えぬ我が国である。是非新しい戦略的思考から、我が国に対する中傷誹謗に如何に対処していくべきか、本気で取り組んでほしいと考えている。

 同時に、朝日新聞虚報事件に明らかな如く、旧軍時代を悪と決めつけ、国の将来を考えず反体制を煽動(せんどう)し、結果として近隣国に媚(こ)びるがごとき勢力が、マスコミをはじめ各層に、まだ多数存在することは誠に遺憾であると強調しておきたい。

(すぎやま・しげる)