集団安保は積極的平和主義

竹田 五郎軍事評論家 竹田 五郎

首相に期待する再検討

武力行使は侵略国への制裁

 安倍総理は通常国会で野党議員の質問に対し、武力行使目的の集団安全保障には参加しないと答弁した。

 ところで、2月22日付産経新聞に中静論説委員が「『強靭な国』へ体質を転換せよ」と、次のような要旨の論文を展開している。

 日本は、テロリストの脅しを跳ね返せる強靭(きょうじん)な国家へ変容せよ。自衛隊は、防衛出動以外では軍隊としての実力行使を行えず、警察官職務執行法を準用される武器使用は正当防衛や緊急避難に限られ、重武装したテロ集団に立ち向かえない。憲法9条が「陸海空軍その他の戦力」保持を認めず、自衛隊を軍隊でも警察でもない「実力組織」と位置づけてきたからだ。自衛隊を「戦力」として再評価するには、憲法第9条2項のはじめに「前項の目的を達成するため」を挿入し、自衛力保持を認めた芦田修正で知られる芦田均元首相の見解に注目し、自衛戦争と侵略を制裁する戦争のための「戦力」を保持すると憲法解釈で認めるべきだ。昨年5月、安倍総理の諮問機関・安保法制懇の報告書は、芦田見解に光をあて「自衛のための武力行使は禁じられておらず、国際法上、合法な活動への憲法上の制約はないと解釈すべき」とした。しかし、その後の記者会見で安倍総理は芦田見解はこれまでの政府の憲法解釈と論理的に整合しないと指摘し、採用できないと語った。総理は2月1日「テロリストたちを絶対に許さない。その罪を償わせるために国際社会と連携してゆく」と述べたが、国際共同行動に参加しないと言う前に選択肢を検証し、自衛隊が憲法解釈のゆえに使えぬ愚かしさを正すことが強靱さの証明だ――。

 昨年8月、日本国際フォーラムは「積極的平和主義と日本の針路」と題し、混迷の度を深める冷戦後の国際秩序を自覚し、集団自衛権行使に満足することなく、積極的平和主義を勧告し、次のような項目を提示している。

 ①国連の集団安全保障措置に軍事的措置を伴うものを含めて参加せよ②PKO法の所要の改正および国際平和協力基本法を制定し、世界的な集団安全保障体制の整備に貢献せよ③集団的自衛権の行使容認を歓迎し、必要な法制度の早急な整備を求める(他項略)。

 昨今、国会でも集団的自衛権行使、集団安全保障措置について論争されているが、国民には両者の差異すら理解されていないようだ。

 国連には193カ国が加盟しており、憲章に明示するように国際平和維持を目的としている。集団的自衛権とは、日米同盟のように、自国と密接な関係にある国家が、武力攻撃を受けた場合、自国が攻撃を受けていなくても被攻撃国を援助し、共同して防衛する権利であり、国連も認めている。しかし、その発動は法的に義務づけるものではない。集団的自衛権によって、両者は防衛条約を締結し、日本は基地を提供し、米国は日本防衛に協力を約束し、片務条約ではあるが、義務として忠実に実行しなければならない。

 集団安全保障は国連の基本理念に基づき、国際社会の平和を守ることにある。多数の国が相互間に戦争、武力行使を禁止し、違反した国には、その他の全ての国が、集団で阻止または鎮圧する、そのための武力行使は侵略国への制裁を意味する。わが国は国連加盟国であり、憲章第7章に定める(条を章に)集団安全保障の義務を負う。

 昨年5月24日付朝日新聞は、「膨張する『自衛』」と題し、政府は安全保障関連法規の審議において15の事態を挙げ、集団安全保障およびPKOについては次の4例であるとし、それらは地理的制限を外し、自衛隊の限定的行使を超えるとして反対している。①国連の平和行動にかかわる他国への行動支援②駆け付け支援③文民等の輸送任務遂行のための武器使用④領域国の同意を得た邦人救出。

 思うに、これら4例に加え、さらにホルムズ海峡の掃海は、むしろ集団安全保障措置とすべきであろう。同海峡は日米のみならず、アジア諸国と欧州をつなぐ海上交通の要所であり、将来、重要度は増すであろう。

 平成2年8月、湾岸危機発生で米国から要請された掃海艇を派遣できず、10月、国連平和協力法案を出したが、11月、廃案となり、自衛隊法に基づく法令改正でC130輸送機を出そうとしたが、時機を失して実現せず、平成3年1月に開戦した湾岸戦争まで130億㌦の戦費負担をしながら、当時の米国世論は「日本は戦友ではない」「世界の信頼を失った」と厳しく非難した。まさに日米同盟破綻の予兆であった。

 世界の人々は、平和を願い戦争を憎む。特にわが国は、平和に安住し、過去の総理らにも軽々に「不戦の誓い」を公言する方もあり、国民の「平和憲法を守れ」との意見も根強くある。

 安倍総理は、一国平和主義を凌駕(りょうが)する「積極的世界平和主義」を標榜(ひょうぼう)し、平和で世界各国に信頼される日本の建設に邁進(まいしん)している。昨年5月、安保法制懇報告は「国連PKO等や集団安全保障措置への参加といった国際法上合法的な活動への憲法上の制約はないと解すべきである」との結論を提出した。しかし、総理は前述のように報告書の提案を採用せず、さらに、集団安全保障措置に武力行使はせぬとも述べたが、再検討を切に期待する。

(たけだ・ごろう)