2014年の東アジア国際政治
浮沈象徴した露大統領
デモクラシーに怯える中国
2014年もまた、国際政治の浮沈の風景が繰り広げられた。国際政治分析は「怖い」ものを扱っている営みであるけれども、そうしたことが鮮明に現れたのが、今年の風景であったといえるであろう。日本を含む東アジア関係6カ国の政治指導者の置かれた立場は、それぞれの国々の浮沈に明らかな影響を及ぼしている。
バラク・H・オバマ(米国大統領)は、11月の米国連邦議会中間選挙に際して共和党が上下両院で多数を占めた結果、議会に対する優位を完全に喪った。オバマは、残り2年の任期の間に、後世に残る「レガシー」を創りたいと願っているかもしれないけれども、それが実を上げるかは定かではない。世界中を驚かせた「キューバとの和解」は、それが結実すれば確かにオバマの「レガシー」として語られるかもしれないけれども、共和党優位の議会に異論は根強い。
ウラジーミル・V・プーチン(ロシア大統領)は、2014年における浮沈を象徴した政治指導者であろう。プーチンは、2月以降、ソチ冬季五輪の開催とクリミア併合の決行によって「得意の絶頂」にあったと思われるけれども、彼の立場は、その後の僅か10カ月で一気に暗転している。プーチンは、ウクライナ情勢に絡んで「西方世界」との対立を深めていたけれども、夏以降に進行した原油価格の低落は、ルーブルの暴落を招き、ロシアの対外影響力の拠り所を揺るがせている。
習近平(中国国家主席)は、上海CICA(アジア相互協力信頼醸成措置会議)や北京APEC(アジア太平洋経済協力会議)の開催を通じて、その存在感を対外的に誇示したかもしれないけれども、その足許(あしもと)では、日本を含めてインドや比越両国のような国々との摩擦が激しくなっている。
腐敗撲滅を大義にした共産党内権力闘争も一向に収束しない。さらに懸念されるべきは、中国経済の失速が明らかになりつつあることであろう。香港やマカオで起きた普通選挙要求の動き、そして台湾における国民党の党勢崩落もまた、習近平を中心とする中国共産党政府部内に対して、「デモクラシーの怖さ」を伝えているであろう。
朴槿恵(韓国大統領)は、政治、経済、社会の三面で内憂の度を深刻にしている。サムスンや現代自動車といった基幹企業における業績悪化は、韓国経済の屋台骨を揺るがせている。旅客船「セウォル号」沈没事故は、韓国社会における深い断裂を浮き彫りにした。朴槿恵の事故対応は、彼女の政治手腕への疑義を広めた。加えて、対中傾斜と対日軽視を露骨にした朴槿恵の対外政策方針は、次第に硬直の度を高めている。朴槿恵は、既に就任2年数カ月にして「レーム・ダック」の様相を呈しているのである。
金正恩(北朝鮮労働党第一書記)統治下の北朝鮮に対する風圧は、依然として強烈である。北朝鮮国内の人権侵害が国際法上の「人道に対する罪」に当たるとして国際刑事裁判所への付託を求める旨の国連総会決議が採択されたのに続き、北朝鮮によるサイバー攻撃が発覚した。米国がサイバー攻撃に対する報復として「テロ支援国家」の対朝再指定に動き始めていることは、金正日以来の対米接近の思惑を一蹴するものであろう。当然のことながら、拉致案件を軸にして進められた日朝接近の模索も、頓挫するであろう。
こうした各国の指導者に比べれば、安倍晋三(内閣総理大臣)の政治上の立場は、恵まれているといえよう。先刻の衆議院議員選挙の結果、安倍は、衆議院総議席の3分の2を超える与党の圧倒的な党勢に支えられつつ、実質4年の任期を得た。安倍は、第2次内閣期に展開した「地球儀俯瞰(ふかん)外交」で着実な成果を挙げたけれども、今後の第3次内閣では「地球儀俯瞰外交・第2版」の展開を求められるであろう。
たとえば、安倍は、ASEAN(東南アジア諸国連合)加盟10カ国の総てを既に訪問しているけれども、「地球儀俯瞰外交・第2版」では、どの国々を再訪し、具体的な対外政策構想上の「型」を残すのか。そこにこそ、安倍における対外政策上の「関心の力点」が浮かび上がるであろう。たとえば、中国の海洋進出の動きを前にして、たとえばインドネシアや比越両国と安全保障上の協定を締結することは、先々の「アジア・太平洋版NATO(北大西洋条約機構)」構想に確かな軸を創っていく上でも、大事な布石であろう。
日本が長期的な構想の下で国際政治の舞台に戻ってくるとすれば、それは、安倍の長期執政に担保されている。この機は、逃すわけにはいかないのではないか。
(敬称略)
(さくらだ・じゅん)