積極的大国外交に出る中国

茅原 郁生拓殖大学名誉教授 茅原 郁生

国際金融体制にも挑戦

習主席が「韜光養晦」転換か

 今秋、北京で開催されたアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議は新たな習近平外交を探る手掛かりを示している。これまでの中国外交は、共産党第18回党大会(18大会)で「平和発展論」路線が強調され、抽象的ながら「平和発展の道を続け、独立自主の平和外交を実行する」との建前論で進められてきた。その一方で資源外交では海洋進出と海洋権益を追求する対外戦略も重視されていた。また昨春の全国人民代表大会(全人代)の政府報告では「独立自主の平和外交政策を堅持する」とも表明されていた。

 そして、2013年6月の訪米時に習近平主席は長時間に及ぶ首脳会談で「新型の大国関係の構築」を提起したが、他方では14年5月の上海における「アジア信頼醸成措置会議」(CICA)で「アジアの新安全保障観」を発表し、「アジアの安全保障はアジア諸国自身の協力強化を通じて実現する」と、米勢力の排斥を図っていた。また、同年10月の「周辺外交工作座談会」では、周辺諸国との外交重視を示していた。しかし、新型大国関係や周辺国重視の外交は必ずしも中国の期待に沿うように進展していない。

 中国では「外交は内政の投影」が顕著で、習政権の2年間は反汚職腐敗を推進し、それが権力闘争の色彩を帯びる中で、内政に忙殺されてきた。しかし今秋の18大会第4回中央委員会総会(4中総会)をもって習主席の権力掌握は「国家統治の法治化」で一応、内政上の決着を見た。これで習政権は権力基盤を確立し、いよいよ外交に本格的に取り組んでこよう。

 それは北京APECを契機とした「中国の特色ある大国外交」の展開に見られる。APECでの首脳会談を通じて中国は、対米重視外交や経済を前面に出す周辺国外交の仕切り直し、さらに日中関係改善に向けた動きを見せていた。

 トピックであった日中首脳会談は既報(本欄11月17日)しており割愛するが、北京APECを通じて中国が最も重視したのは対米外交で、2日間の10時間に及ぶ米中首脳会談が続けられた。そこで習主席は米国との対等な「新型大国関係」を改めて提起したが、オバマ大統領からの応酬もあり、昨年の習主席訪米時の「米中両国は衝突せず、対抗もしない、核心的利益と重大な関心事を相互尊重する」という合意の域を出るものではなく、同床異夢の結果に終わった。

 それでも今次首脳会談の具体的成果として、炭酸ガス排出量で世界1~2位を占める両国が二酸化炭素の削減目標を明示して地球温暖化対策を進めることを確認。また、米太平洋軍司令官の訪中時の合意事項であった軍事演習などの相互通報、海軍空軍同士の安全規則の策定なども合意された。

 次の中国の周辺国外交は、昨秋の工作座談会で優先課題に位置付けられながら、海洋権益を巡る問題で挫折が続いていた。実際、13年から南シナ海でフィリピンとはスカボロー礁などで公船や海軍艦艇による緊張事態を生起させていた。また14年6月にはベトナム沖で中国の移動式探査船がベトナムの排他的経済水域内で活動を開始し、これを排除しようとするベトナムとの間で緊張が高まる事態もあった。

 また、東シナ海でも昨年から中国海軍のレーダー照射事件や尖閣諸島を含む防空識別圏設定など危険でルール違反の行動が繰り返された。このように中国は18大会で平和発展の意向を表明しながら、現実には周辺国に対して緊張を高める行動を反復しており、海洋における強権外交は中国の本来目指した周辺国外交を台無しにした。

 これらから北京APECでは、中国はシルクロード経済ベルト地帯構想の基金に400億㌦を拠出し、また中国主導のアジアインフラ銀行設立などにも膨大な外貨準備高を武器として周辺国外交を展開した。しかし、それは世界銀行や国際通貨基金(IMF)といった日本や欧米が主導する国際金融体制への反発であり、既存の国際金融システムに対する中国の新たな挑戦ともなっている。

 見てきたように中国は今秋の北京APECやその後の豪州でのG20の首脳外交を通じて外交姿勢の転換を見せている。それは、まず大国外交の重視で、大国化した自信の上に習外交は対米関係で対等を求める「新型大国関係」を追求しており、「韜光養晦(とうこうようかい)(才能を隠して外に表さない)」路線からの脱皮を窺(うかが)わせている。次に周辺国外交の重視でも、海洋を巡る不信感を払拭(ふっしょく)するよう仕切り直しながら、既存の金融体制への新たな挑戦の芽を出している。

 折から11月末に中国は20年ぶりの重要会議「中央外事工作会議」を開催し、習主席は「中国の特色、中国の風格、中国の気概を有する中国の特色ある大国外交」を強調した。そこでは「中国共産党指導の堅持、国家と民族の発展、自国のパワーの基礎に独立・自主の平和外交路線、国家の核心的な利益を守る」をキーワードとした外交姿勢を示している。これらを踏まえて具体的で新たな外交政策はこれから見えてくることになろう。

 このように中国は積極的な外交姿勢に転じてきたが、これからの米中「新型大国関係」や経済を前面に出した周辺国外交、さらにこれらに連動する日中関係の改善などは内政動向と密接に関連しており、今後の習政権の安定度を注視する必要があろう。

(かやはら・いくお)