増え続ける「若年自殺」を憂う

根本 和雄3メンタルヘルスカウンセラー 根本 和雄

社会的な課題と捉えよ

就活や職場に耐える強靱さを

 内閣府の「自殺対策白書」(2014年版)によると、日本の自殺者は2年連続減少し、1997年以来15年ぶりに3万人を下回り、2万7858人となった。然し、若者の自殺(15歳~34歳)の発生率は10万人当たり20人と先進7カ国のなかで死因のトップが自殺であり、2位のカナダの12・2人を大きく上回っている(2012年内閣府調べ。30歳未満の自殺者数は3348人である)。

 国際的に見ても、15歳~34歳の世代で死因の第1位が自殺となっているのは先進7カ国では日本だけである。その要因は一体どこにあるのであろうか。

 若い世代の自殺の原因は、2007年以降20代では「勤務問題」に関連した自殺死亡率が増え続けていることが判明している。

 これ以外にも就職失敗による所謂(いわゆる)「就活自殺」(採用試験で不合格通知が届いたとき、自分という人間が否定されたような感じで深刻に悩み自殺企図に至る)も後を絶たない。警視庁の発表では、2011年の就活自殺者数は約150人で、2007年の2・5倍である。その背後には、企業側は正社員の人数を減らすために採用を優秀な少数者に絞り、従って非正規雇用の人数が増加している(非正規雇用者に対する社会的評価が低いと思われがちである)現状がある。

 また、採用されても職場内での対人関係で不適応になり、人間関係のトラブルや過労などでメンタル面への影響が多く現れていると思う。このように、若年世代の自殺増の背後には就職に伴う「社会的な不況」が潜んでいるのではなかろうか。

 また、他の要因として上田紀行氏(文化人類学者)の指摘する「生きる意味の不況」である。これは「生きる意味の喪失」に他ならないと思う。

 若者たちは常に他人の評価に怯えながら生きているなかで、自分自身の生きる意味を見いだせなくなっている人々が増え続けているのではないかと思う。

 ドイツの哲学者・ニーチェ(1844~1900)は、“人間は、生きる目標さえしっかりしていれば、大抵の苦難に耐えることができる”と語っている。昨今の「生きる希望が持てない」状況を避けて通るのではなく、その苦境のなかで、もう一度自分を見つめ直すことが大事ではないかと思うのである。

 なぜならば、“逆境を避けて通るのではなく、その逆境に置かれた要因を考えれば、その逆境は自分の利になる”と一絲(いっし)禅師(江戸初期の臨済宗)は語っているからである。

 これこそ開き直りの強かさであり、強靭(きょうじん)さ(ロバストネス)であると思う。それと同時に、状況の推移をじっと待ちながら、しばらくの間、ある程度判断を先送りするという柔軟さ(フレキシビリティー)の心の処方箋も必要ではなかろうか。この強靭さと柔軟さを上手に使いこなす生活術がいま求められているのではないかと思われてならない。

 それに加えて、若年層を対象とした自殺対策のプログラムの策定である。

 これまでの「自殺対策基本法」や「自殺総合対策大網」に加え、さらにより具体的に地方公共団体、学校、医療機関、民間団体等が密接に連携を図りつつ、若者たちの相談(カウンセリング)体制を推進し、“生きづらさ”を克服することが急務ではなかろうか。

 国は、平成28年までに自殺死亡率を17年(人口10万対24・2)と比べて20%以上減少させることを目標としているが、若年層への具体的な対策は明確に示されていない現状である。例えば、「自殺予防推進総合対策センター」(仮称)を都道府県はじめ市町村に設立し、国民的な支援体制を確立することがいま求められていると思うのである。

 自殺を単に一個人の問題とするのではなく、社会的な、重要な、緊急な課題と捉える必要がある。それとともに、昨今の世相のなかで将来への展望と希望を抱くことができず、萎えて折れやすくなっている若者たちに、どのようにして復元力を身につけ生きる希望を持たせるかが問われていると思う。

 人間は、小さなことでも成功体験を味わうとそれが「自己効力感」(セルフエフィカシー)となって困難を乗り越える原動力となるのである。従って、些細(ささい)なことでも一つひとつ積み重ねて成果を実感しながら自信を持つことが、折れにくい心の復元力(レジリエンス)を養うことにつながるのではなかろうか。

 イギリスの作家・ゴールドスミスは、こう語っている。“自分にとっての最大の糧は、一度も失敗しなかったことにあるのではなく、倒れるたびに起き上がることにある”と。

 人生に降り懸かる逆境を糧に、成長への原動力へと転じることを切に願いつつ。

(ねもと・かずお)