憲法改正を政治の日程に

太田 正利評論家 太田 正利

手続き整い次は具体化

国民運動で世論喚起せよ

 秋も深まる11月だが、今の世代の人は11月3日というと何をイメージするだろうか。筆者の年代だと「明治節」(明治天皇誕生日)だが、同時にこの日は日本国憲法の発布日、1946年のことだ。この憲法はその後一度も改正されたことがなく、「世界最古の憲法」とか「不磨の大典」などと揶揄(やゆ)されている有様だ。憲法と現実との乖離(かいり)はますます拡大しており、大規模自然災害、地球規模での環境破壊、さらには他国による軍事的脅威などわが国を囲繞(いじょう)する安保環境の変化等々、わが国は憲法が当初想定していなかった危機的情況に直面していると言って過言ではない。

 筆者の記憶によると、大日本帝国憲法(1889年2月11日発布)も同様、一回も改正されていない筈だ(最後の帝国議会で改正手続きを経たとはいえ日本国憲法に『改正』したとは断じて言えまい)。他の先進国の憲法改正情況如何? ドイツは59回、フランスは27回、カナダは19回、イタリアは16回、アメリカは6回も改正という具合だ。日本はこれで良いのだろうか。かかる意識の高まりとともに、本年6月に国民投票法の改正案が成立し、憲法改正に必要な手続きが整ったと言える。なお、国会では現在「改正賛成派」が改正に必要な3分の2を確保している。

 そもそも、現在の日本国憲法は厳密に言うと日本人自身が作ったものではない。日本政府により戦後最初に作られた新憲法草案は「こんなものでは駄目だ!」と占領軍当局により一蹴され、アメリカ民政局が超スピードで草案を完成した。つまり、マッカーサー司令官から命令を受けたホイットニー准将は、3人の幕僚(ケーディス陸軍大佐、ラウエル同中佐、ハッシー海軍中佐)に起草案作成を指令し、彼らは大綱を一日で作成、その後、民政局21人から成る起草委員会が「日本側が反抗する余地を与えぬよう」6日6晩の超スピードで草案を作成させた。

 これを「和訳」したのが、現在の日本国憲法である。名前は忘れたが、当時ある学者が、新憲法について、「この憲法は文語ならぬ口語で綴られているのが特徴だ。さらに英訳が付されており……文章は上手くはなく意味が不明な箇所があるが、英訳を見ると納得させられる」と書いていた。占領下最大限の皮肉だった。

 念のため前文を見てみよう。驚いたことに、全部がアメリカの政治的文書及び国際関係文書を引・採用している。曰く「米国憲法」、リンカーンのゲティスバーグ演説、マッカーサーノート、テヘラン宣言、大西洋憲章、米独立宣言だ。つまり、日本国憲法は、少なくとも前文は外国文書の「ツギハギ」だらけなのだ! 他は推して知るべし。

 横道にそれるが、過日のノーベル平和賞について、日本は「憲法9条等々…」の故に有力な候補とされていた。平和賞が欲しいのは当然だが、仮に当選の暁に「護憲派」が勢いづくのが怖れられた。まさに痛し痒(かゆ)しだった。

 ところで、世論調査等で既に国民の過半数が憲法改正を支持している。然るに、国会の憲法審査会では、未だに改憲発議に向けた現実的議論は開始されていないのだ。そもそも、現行憲法第一の問題は、この憲法が「権利」の主張に重点を置き、「義務」の面への言及がないことであり、これは制定当時から言われてきたことだ。かかる前提の上に立てばどの条項が一番問題なのか。由来、前文のほか、「天皇」の地位が明文化されていない。例えば天皇陛下の憲法上の地位は、政府の公式見解によれば「対外的には元首である」というものだが、国内法上の地位ははっきりしていない。筆者も経験したが、天皇陛下は外国大使の信任状は受け取られるが、日本の大使に信任状を出すのは内閣であって、天皇は認証するだけだ。これから見ても天皇がわが国の元首たることを明記すべきである。

 その他、第9条の改正である。現行法では自衛隊は外国からの武力攻撃があり、防衛出動命令が出された際にしか武力行使ができない。このことは周辺国によく知られている。このため、かの国は呆れる程大胆な行動を執ることが稀でない。自衛隊に軍隊としての明確な法的地位を与えられれば、国際法規、国際慣例に従って警告を発し、また、場合によっては警告射撃し、又は攻撃することも出来るようになろう。

 9条の問題は当然として、前文に美しい日本の伝統文化に言及しこれを明記するほか、世界的規模の環境問題に対応する規定、国家・社会の基礎たるべき家族保護の規定、大規模災害等の緊急事態対処の規定も考量すべきであろう。

 実は、「美しい日本の憲法をつくる国民の会」が、10月1日、千代田区永田町の憲政記念館で設立総会が行われ、筆者は代表委員の一人として参加した。この会が目指すところは、美しい日本の憲法をつくる1000万人の賛同者の拡大運動の推進、憲法改正の早期実現を求める国会議員署名及び地方議会決議運動の推進、全国47都道府県に「県民の会」組織を設立し、改正世論を喚起する広範な啓発活動の推進を目指し、1000万人賛同者拡大への協力を求めている。ここに、憲法改正という念願の実現に向け一歩前進ということとなった。「任重くして道遠し」(曾子(そうし)…この言繁は論語にも引用されている)。だが、一歩、一歩前進したいものだ。

(おおた・まさとし)