健康寿命長く保つ生活術を

根本 和雄メンタルヘルスカウンセラー 根本 和雄

医療より「心の在り様」

野菜摂取し運動で体温向上

 日本人の平均寿命は、男性80・21歳、女性86・61歳で、男性が初めて80歳を超えたことが7月31日厚労省の調査で分かった。これは、人生「八十年時代」到来の幕開けである。「厚生労働白書」(2014年版)は、「健康寿命」の延長を提言し、健康寿命(男性70・42年、女性73・62年)と平均寿命との差を縮めることが重要であるとし、現役時代から食生活の改善、運動習慣に取り組み、生活習慣病を予防することを訴えている。

 確かに近年、人間の寿命の長さは遺伝的要因が及ぼす影響は25%に過ぎず、食生活や生活習慣など環境的要因、心の在り様が75%を占めると明らかになってきた。まさしく、貝原益軒(江戸初期の儒者)が“人の命は養生よくすれば長し、養生せざれば短し、養生の術なくは早世す”(「養生訓」)と述べている如くである。

 いまや、長寿県と言えば長野県であり、平均寿命(10年)は、男女とも全国第1位である(男性80・88歳、女性87・18歳)。その長寿の要因の一つが食生活で、野菜を食べる量が日本一多いこと。野菜の摂取量は全国平均で男性295・6㌘、女性280・2㌘に対して長野では男性378・1㌘、女性364・8㌘と充分に摂取している。しかも、長野特有の環境(標高が高く昼夜の寒暖差が大きい)が食物に長寿力のエネルギーを与えている(抗酸化作用を高める栄養素・ファイトケミカルを多く含む)ことが健康寿命に功を奏しているのではなかろうか。長野には伝統食の野沢菜漬けと信州味噌があり、信州味噌には(メラノイジンという抗酸化作用があり)がんの予防にも役立つといわれている(06年~10年の長野県のがんによる死亡率は男性47位、女性46位と低くなっている)。

 このように健康長寿を支える生活術の一つが「食生活」に起因することは明らかである。

 次に、「低体温化現象」を改善することだ。昭和38年頃の日本人の平均体温は36・9度であったのが、近年35・8度と低体温化現象になりつつあると指摘されている(東京有明医療大学・川嶋朗教授による)。健康体で免疫力の旺盛な体温は36・5度台という。体温が1度下がると免疫力が30%落ち、逆に1度上がると免疫力は60%に跳ね上がるという。

 例えば、がん細胞がもっとも増殖される体温が35度で、もともと熱に弱い性質があり、体温が高い方ががん細胞は定着しにくいとされている(ハイパーサーミア学会による温熱療法)。従って、望ましい体温(36・5度)を保つためには、適度な運動で体温の向上を計ること、冷房で体を冷やさないよう心掛けるとともに、冷たい飲みもので腸を冷やさないことではなかろうか(腸の免疫力は体全体の7割を保っている)。“体が冷たいと、免疫をつかさどる細胞や酵素は、うまく機能しない”とダニエル・セスラー教授(カリフォルニア大学)は語っている。それと同時に、体を温める陽性の食べ物(根菜類)と薬効のあるもの、例えば、ニラ・ネギ・ニンニク・玉ネギ・生姜など食養生を大事にする生活術である。

 更に、自然のリズムに適う「早寝・早起き」の生活術を実行することだ。不規則な日常生活は「交感神経」が優位の状態で興奮しやすく、高血圧や脳卒中で倒れる危険性が常に潜んでいる。

 しかも、不規則な生活は「顆粒(かりゅう)球過多・リンパ球減少」を促進し、加齢現象が加速するという(顆粒球は加齢により増え、リンパ球は減少することが分かっている。尚、安保徹著「免疫力が上る生活下る生活」に詳しい)。加えて睡眠時間も大切で、7時間前後の熟睡・安眠そして快眠を保つことが一日の生活の活力の源であることは言うまでもない。

 C・ヒルティはこう述べている。“あらゆる休養のうちで最もよいのは眠りである。そして、眠りは失われた力(脳の力)を回復する”と(「幸福論」第三巻)。

 最後に、精神的な回復力を常に保ち続ける生活術について述べてみたいと思う。

 「長寿と精神状態・社会状態との関連について調べた研究(デューク大学のパルモア教授)によれば、268人の60歳~94歳の精神状態、からだの健康状態、社会的地位、その人の活動の状態を調べたところ、長寿ともっとも関係するのが「仕事の満足度」であり、次に「生活に対して感じている幸福度」、3番目に「医師による健康状態」という結果であったという(帯津良一監修「ホリスティック医学の治癒力」)。つまり、医学的な健康状態(身体の状態)という客観的で肉体的な要素よりも、「満足感」や「幸福感」といった主観的な要素のほうが関連が強いことから、寿命や老化にとって、いかに「心の在り様」が重要であるか明らかだ。

 人生に突然として襲いかかる出来事(アクシデント)で心がバルネラブル(傷つきやすい)な状況に置かれたときでも正常な状態が維持できる力がレジリエンス(精神的な回復力)であり、これが、その人の自発的治癒力として重要な意味を持つのである。

 満足感や幸福感という心の在り様は、このレジリエンスという「復元力」と深く関わっているのではないかと思う。アメリカの心身医学者H・ベンソン(Herbert Benson)はこう語っている。“人間は、その人の考え方いかんで、病にもなれば健康にもなる”と。

(ねもと・かずお)