進む「ワークライフバランス」

秋山 昭八弁護士 秋山 昭八

家庭時間増やす改正法

男性の育児参加へ意識改革を

 近時、労働基準法改正や育児介護休業法が改正施行されるに至ったが、これらは「ワークライフバランス」の考え方を基本的に取り入れたものであり、今後の労働法制を考えるに当たりキーワードとなるといえる。今後「仕事と家庭との調和」を図るため種々な対応が模索されていくことを念頭に、種々の法改正が検討される必要がある。

 最近の大きな改正は、平成20年12月5日成立の労働基準法の一部を改正する法律(以下「改正労基法」という)と、平成21年6月24日成立の育児・介護休業法の一部改正が挙げられる。

 前者は、長時間にわたり労働する労働者の割合が高いことに対応して、労働以外の生活のための時間を確保しながら働くことができるようにするため、一定の時間を超える時間外労働について割増賃金の率を引き上げるとともに、年次有給休暇について時間を単位として取得できることとする必要があることが、後者は、出産を機会に離職する女性が多く、男性の休業取得率が低いこと等が立法理由となっている。

 いずれの改正も、「ワークライフバランス」という考え方が、国民的なコンセンサスとして実践されたものといえる。

 前者は、時間外労働の割増率をアップさせることで時間外労働を減らし、有給休暇を取りやすくすることで労働者の仕事の負担を減らし、家庭での生活時間を確保しやすくしており、後者は、女性労働者の離職の機会を減らし、男性労働者の休業取得率をアップさせることで家庭における育児や介護への男女共同参画の機会を増やしており、子育てをしやすい環境づくりにつながるといえよう。

 改正労基法の主な改正内容は、①時間外労働の削減と割増賃金の割増率の引き上げ(有給の代替休暇付与精算)②年次有給休暇制度の見直し(時間単位年休の許容)である。

 ①は、使用者が1カ月につき60時間を超えて時間外労働をさせた場合の割増率を50%以上とし、使用者が、労使協定でこの割増賃金を支払うべき労働者に対して、この割増賃金の支払いに代えて通常の労働の賃金が支払われる休暇(年次有給休暇を除く)を与えることを定めた場合、割増賃金を支払う必要はないとするものである。

 ②は、労使協定により時間を単位として有給を与えることができる労働者の範囲と対象となる有給休暇の日数(5日以内)を定めた場合は、労働者が有給を時間単位で請求したら、時間を単位とした有給を与えることができることとなった。

 わが国の合計特殊出生率(女性1人が生涯に生む子どもの平均数)は、過去最低だった平成17年(1・26)から3年続けて上昇したとはいえ、平成20年においても1・37に留まっており、人口を維持できる基準とされる2・07には遠く及ばない状況であり、少子高齢化の状況は全く変わっていない。

 そのような中で、少子化対策の観点から、労働者が男女ともに子育てをしながら働き続けることができる雇用環境を整備する目的で行われたもので、主な内容は以下のとおりである。

 ①子育て期間中の働き方の見直し、②父親も子育てができる働き方の実現、③仕事と介護の両立支援、④実効性の確保。

 労働分野における規制緩和の象徴ともいえる「労働者派遣法」の改正の具体的内容は、①登録型派遣の原則禁止、②日雇い派遣の原則禁止、③製造業務派遣の原則禁止、④派遣元事業主に、一定の有期雇用の派遣労働者につき、無期雇用への転換推進措置を努力義務化、⑤派遣労働者の賃金等の決定にあたり、同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮、⑥マージンなどの情報公開を義務化したこと等である。

 派遣労働の規制強化を目的とした労働者派遣法改正案は、派遣労働者の不安定な労働環境を改善するため、①製造業への派遣の原則禁止、②仕事があるときだけ派遣元と雇用契約を結ぶ登録型派遣を原則禁止、③派遣元企業が得る手数料割合の明示を義務づけ――などを盛り込み、政府が昨年の通常国会に提出した。

 自民、公明両党は「不況で正規雇用できない現状では、逆に失業者が増える」と反対したため、民主党は労働者保護対策だけでも進めるため、修正に同意。「製造業派遣」と「登録型派遣」の原則禁止規定を削除した修正案を、3党の賛成により可決した。

 日本の長時間労働は深刻である。現今労働時間規制の適用除外制度を創設し、労働時間の長さではなく、労働の成果で評価される働き方が打ち出されている。残業代ゼロの批判に対し、残業代に見合う処遇の対応が望まれる。

 行政であれ民間であれ男性の育児参加を進めるためには、男性の育児参加が少なかった時代に子育てをしてきた世代の意識改革が欠かせないといえよう。

(あきやま・しょうはち)