尖閣領空侵犯措置に万全を
監視能力の強化が必要
各種の対応に訓練を重ねよ
先日、安倍総理は答弁のなかで、東シナ海での領海・領空主権維持に係る行動を念頭に、航空活動における時間的推移の厳しさから、不測の事態が起こりやすく、確りした対応を準備しなければならない旨発言した。誠に然りであり、領海侵犯に比し、領空侵犯対処は非常に困難な面が多い。関連して所見を披露したい。
対領空侵犯措置の基本は、対空警戒監視システムにある。固定サイトと言われる緊要箇所に設けられた対空監視レーダーがその主力である。我が国も全周にレーダー網を保有運用しており、密度・質ともに高い。しかしながら、固定サイトの弱みは低高度覆域にある。これは、地球という球体に係るもので、如何ともしがたい。一般に低高度覆域は、サイトの標高により簡単な算数で算出できる。
例えば、地表にあるレーダーは、2500フィートで飛行する飛翔体は60海里以遠では地平線の下になることから、探知できないのである。尖閣の場合、最も近い宮古島サイトから約120海里であり、10000フィート以下は物理的に監視不可能である。因みに、中国本土からは、実質固定サイトによるレーダー監視は不可能である。台湾は、約110海里であり、我が国と同程度の監視が可能である。
この低高度覆域の特性を補うため、各種の対策が講じられている。その第一は空中警戒監視機(AWACS、AEW等)の運用である。これらは高高度から海面を見降ろす形で運用するため、低高度覆域を十分カバーすることができる。我が航空自衛隊も、E2C、E767を保有し随時運用が可能である。これら航空機の運用は、非常に効果的であるが、24時間恒常運用するためには、かなりの機数と労力が必要であり、大なる経費が必要である。
第二の方法は、対空監視システムを有する艦艇を前進配備し、所望の海域上空をカバーすることである。海自艦艇の派遣、常時海域監視を行っている海保艦艇への対空監視能力の付与等が有力な施策であろう。第三の方策は宇宙からの監視、超長波レーダー等が考えられるが、我が国には常時監視する能力はない。今回の中期防では、警戒航空隊の増強、イージス艦の増強が計画されているが、この警戒監視能力強化の線に沿ったもので肯首できる施策である。
領空侵犯機には、地上からの国際緊急無線による警告等の処置と、戦闘機による空中での行動により対処する。尖閣の場合、無線による警告は可能であるが、スクランブル発進基地は沖縄本島那覇にあり、戦闘機は下令後、200海里以上離れた現場到着まで30分を要する。従って200ノット程度の低速機(レシプロ機)でも、領海から150海里程度で発見しなければ間に合わないし、高速機(ジェット機)が意図的に直進してくる場合は、侵犯以前の対処は事実上不可能である。このため、宮古島に隣接した下地島空港の活用が、論議されているところであるが、現在使用されていない空港の有効活用の意味からも早期実現が望ましい。
戦闘機の行動要領は、更に困難を極める。ヘリコプターから超音速機に至るまで、相手の態様に応じ、適切な機動を実施しつつ行動を監視し、領空に接近した場合、国際規定に基づく視覚信号、音声通信により警告を行い、従わない場合、警告射撃を行うなどの処置が必要である。この間、不用意な行動は海南島事件(米海軍EP3と中国戦闘機F8の接触墜落事故)に見られるように接触事故を引き起こしかねない危険性を孕(はら)んでいることは言うまでもない。
さらに尖閣の場合、故意の侵犯があることから、各種事態に対応した処置を準備し演練しておく必要がある。
キーポイントは、彼に倍する機数を指向し、絶対有利な態勢を持って臨むこと、彼が戦闘機等の武装機である場合その射界に入らないこと、彼の急旋回等不測の行動に対しては離脱・最占位を旨とし、この間、僚機が有利な位置を支配するなどの処置が必要である。何れにせよ、各種の対応に、質の高い整斉たる行動を持って臨み、相手に「手も足も出ない」無力感を与えることが何より重要である。
何時も問題になるのは、スクランブル機の警告、誘導に従わず侵犯を継続する場合の処置である。現に領海では警告誘導に従わず、定期的な侵犯を繰り返しており、航空活動においてもその公算は高い。領空侵犯機が無人偵察機である場合を含めて、各種の対応が考えられるが、より厳しい対応を基本に、都度適切な判断・処置が求められ、真剣なシミュレーション訓練が必要である。この際のキーポイントは、レーダー航跡、空中映像、音声記録といった、状況掌握・公開抗議に必要な資料を確実に収集することである。細部の行動要領は通常ROE(部隊行動基準、武器使用基準)と呼ばれ、高い秘区分に属する。指揮管理システムが整備されている今日、全組織一体となった対応を取る必要がある。
残念ながら領海侵犯においては、漁船に巡視艇が追突されたり、その映像が不自然な形で漏えいしたり、犯人を国民が首を傾げる特別処置で送還したり、不首尾な実績を残している。領空侵犯は、自衛隊の行動であることから、国の威信に懸けても万全の準備で、さすがと思わせる対応をしなければならないと考えている。
(すぎやま・しげる)