名護市長選結果は予想通り

300沖縄大学教授 宮城 能彦

「誇り」を傷つけたお金

沖縄問題は県民感情の問題

 名護市長選挙が終わった。

 結果は、普天間基地の辺野古への移設に反対する現職の稲嶺進氏が、移設推進を訴えた前自民党県議の末松文信氏を大差で破り再選を果たすというものであった。

 全く、予想通りである。

 と書くと県外の人は驚くのだろうか。

 稲嶺氏の当選はすでに、2013年末の知事の会見で決まっていた。仲井真知事は、辺野古埋め立て申請を承認する際の記者会見で、「県の要望に沿った内容が盛り込まれており、安倍内閣の沖縄に対する思いは、かつてのどの内閣にもまして強いと感じた」と話した。その感覚が、多くの県民の怒りを買ってしまったのだ。

 私も何度も書いているように、沖縄問題は、沖縄県民の感情の問題である。良い悪い、合理的か否か、事実を根拠にしているか否かの問題ではない。

 沖縄戦で4人に1人の県民が亡くなった。それは、本土決戦までの時間稼ぎをするためであった。戦後、その沖縄だけが切り離されて「本土」だけが1951年に調印されたサンフランシスコ講和条約で主権を回復。日本復帰が実現したものの、復帰前後から「本土」にあった米軍基地までもが沖縄に移設されてしまった。

 そういう沖縄に対して、これまで日本政府は「お金をばらまく」こと以外の何もしていない。本土防衛のために沖縄戦を戦った県民に対する顕彰もしていなければ、戦後、米軍統治下で基本的人権すら認められなかった時代を一生懸命に生き抜いたことへ対する敬意も示されていない。

 多くの県民はそのように認識している。

 沖縄に対する施策を考えるうえで最も大切なことは、県民が「そう感じている」という事実ではないだろうか。

 さらに、最近はもっと複雑になってきた。基地関連で、沖縄は多くの国家予算を配分されているというイメージがあるが、事実は異なるということも報道されるようになった。地方交付税と特別な振興策を県民1人あたりで計算すると、47都道府県で沖縄は真ん中くらいだと地元の新聞沖縄タイムスは報じている。

 もちろん、たとえ中位であろうとも、沖縄の経済が政府からの交付金に依存している事実に変わりはない。だから、沖縄の人々は、自分たちの力のなさをも痛感している。他に有効な施策を出せない自分たちを歯がゆくも情けなくも思っているのだ。沖縄県民の大多数は、「十分な補償があれば」と考えているわけでも、「何が何でも米軍基地に反対」と考えているわけでもない。日米関係の重要性も十分に理解している。

 しかし、日本政府があまりにも盲目的に対米追従であることに怒りを抑えきれないのである。国家に自立的な安全保障の理念があれば、多くの県民が納得する可能性は十分にあるだろう。

 このような複雑な県民感情に、どう対応するかが最も重要な課題であるのにもかかわらず、仲井真知事は「有史以来の予算だ。長年の基地に絡む性格の違う内容のものの解決をお願いしたら、早く取りかかっていただいて前に進み始めた実感がある。いい正月になるというのが実感だ」と語ってしまった。

 これでは、沖縄県民がまるで最初から金ほしさでゴネていると誤解されてしまうではないか。私の友人も周辺の人たちも、沖縄人(ウチナーンチュ)は皆怒っていた。最悪の会見である。この瞬間、名護市長選の結果は決まってしまった。

 さらに追い打ちをかけることがあった。選挙期間中、自民党の石破茂幹事長が500億円の振興基金構想を表明。これが逆効果となる。

 16年前の1997年9月、普天間飛行場の辺野古移設への是非を問う名護市民投票があった。結果は、投票率82%、条件付きを含む反対票が54%、条件付きを含む賛成票が46%であった。

 その時、当時の防衛施設庁の職員たちが市内を駆け巡り、「辺野古を受け入れればこんなにお金が落ちますよ。こんな施設ができますよ」と名護市民に訴えていた。町中で同じ内容の看板をあちらこちらに見ることができた。それが、僅差で「移設反対」が多くなった原因のひとつであったことを自民党や政府は認識していないのであろうか。その時、多くの名護市民は、「誇り」を傷つけられたのである。

 確かに、県民はかつて、軍民共用空港建設を辺野古に作る公約で稲嶺知事を選出し、それを引き継いだ一期目の仲井真知事を当選させたことがある。県民世論が一貫しているわけではない。しかし、その後民主党の鳩山首相が「少なくとも県外」と発言した時から、より顕著に、普天間移設問題は「県民感情」の問題となった。

 しかし、金で感情やプライドを抑えることができるはずはない。

 私が最も恐れていることは、今後ますます、「沖縄県民は多額の予算を配分してもらっているのに駄々をこねている」という認識が本土で広がり、沖縄県民がますます孤立していくことである。そのことで喜ぶのは誰か。

 私は何度でも訴えたいと思う。「沖縄県民は何に怒っているのか」今一度考えてみることこそが、普天間基地の移設だけでなく、日米同盟にとっても重要なことではないかと。

(みやぎ・よしひこ)