【社説】東日本大震災11年 復興・創生の鍵は産業振興


東日本大震災11年

東日本大震災から11日で11年。東京電力福島第1原発事故の影響で避難指示が続く福島県双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館では10日キャンドルに火がともされ、集まった人が追悼や復興の祈りをささげた

 死者・行方不明者2万2000人の犠牲と家や働く場などへの甚大な被害をもたらした東日本大震災から11年が経過した。愛する人、かけがえのない家族を失った悲しみを新たにした人も多いはずだ。犠牲者の冥福を祈りつつ、復興への思いを新たにしたい。

 東北の復興=日本の再生

 震災の記憶と教訓を風化させないとともに「東北の復興なくして日本の再生はない」(岸田文雄首相)という観点を忘れたくない。

 昨年の東京五輪は復興五輪と位置付けられたが、新型コロナウイルス感染拡大で、東北地方の会場でも原則無観客開催となり、復興を十分アピールできなかった。それでも聖火リレーを福島県からスタートし、東北の復興=日本の再生ということを改めて示すことができた。

 復興への歩みは着実に進んでいる。津波被害を受けた住宅の移転・整備などはほぼ完了した。昨年末には仙台市と青森県八戸市を結ぶ全長358㌔の「三陸沿岸道路」が全線開通した。

 昨年から「第2期復興・創生期間」に入った。インフラ面での復興が成ったこれからは、まさに「創生」の段階だ。回復した生活の基盤の下に、未来を見据えた東北地方をつくり出していく時だ。そのために、東北地方の潜在力を多角的に見直し掘り起こして、新しい産業を創生していく必要がある。

 復興庁によると震災による避難者は3万8000人おり、うち88%は福島県の住民だ。東京電力福島第1原発に近い双葉郡では、住民票がある人のうち実際に居住しているのは4分の1にとどまっている。

 国は7市町村に広がる帰還困難区域計337平方㌔のうち、双葉町や大熊町などの27平方㌔を復興拠点として除染し、2022~23年に避難指示を解除する。帰還者には高齢者が多く、地域コミュニティーの形成にも若い人たちが必要だ。できれば故郷に帰りたいという人が多いに違いないが、仕事がなければ難しい。

 国家プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」などを中心に、新しい産業が創出されれば、魅力ある地域に生まれ変わることも可能だ。

 自然や気候・風土、歴史や伝統、人情のすべての価値を再発見し、それらを現代のテクノロジーや情報技術と結び付け生かすことができれば、新しい産業の創出の道が開かれるのではないか。それはこれからの日本の大きなテーマでもある。

 深刻な津波被害を受けた水産業も、漁港、養殖施設、水産加工場などは再建された。三陸沿岸道路は、三陸の新鮮な水産物を首都圏はじめ全国に届ける物流ルートとしてその威力を発揮しつつある。新しい物流ルートが、新しい水産ビジネスを生むことも夢ではないだろう。

 新しい観光ブームを

復興が進むにつれて、東北には多くの観光客が訪れるようになったが、その勢いは新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)でしぼんでしまった。しかし、観光復興の中で重ねてきた経験は、ポストコロナの観光にも生かされるに違いない。新しい東北観光ブームをつくり出してほしい。