【社説】インド太平洋戦略 米国は中国の変革目指すべし


バイデン米大統領

 バイデン米政権が「インド太平洋戦略」を公表した。中国の脅威が高まりつつあるインド太平洋地域に積極的に関与していく姿勢を鮮明にし、この地域での米主導権維持を目指す対中長期戦略だ。

 多国間連携の枠組み活用

 戦略は中国について「経済、外交、軍事、技術の力を結集して勢力圏を広げ、世界で最も影響力のある大国になろうとしている」と警戒感を表明。また「台湾周辺や東・南シナ海で軍事圧力を強め、人権と国際法を侵害している」と批判した。

 中国に対抗するため、日米豪印4カ国の枠組み「クアッド」など多国間連携の枠組みを最大限に活用する方針を示した。さらに、台湾の自衛能力を支援することで台湾海峡の平和と安定を維持するとして「同盟国、友好国に対する軍事的侵略を抑止する」とも表明した。

 気になるのは「中国を変えることは目的ではない」と明言していることだ。ポンペオ前米国務長官は2020年7月の演説「共産中国と自由世界の未来」の中で「自由を愛する国々は、中国を変革へと導かなければならない」と強調している。

 ポンペオ氏は「中国共産党政権がマルクス・レーニン主義政権であることを忘れてはならない。習近平総書記は、破綻した全体主義思想の真の信奉者だ」と断じた。バイデン政権がトランプ前米政権の対中強硬姿勢から後退すれば、今回の戦略が有効に機能するか疑問符が付くだろう。

 一方、戦略には今年初めに「インド太平洋経済枠組み」を新設する方針を明記した。この枠組みの特徴は、経済安全保障上の中国の脅威を封じる「21世紀型ルール」を策定する点だ。公表された行動計画は、電子商取引に限定したデジタル経済や、半導体サプライチェーン(供給網)などを協力分野に挙げた。

 枠組み新設の背景には、バイデン政権や与党・民主党内で支持基盤の労働組合への配慮から環太平洋連携協定(TPP)などの貿易協定への懸念が根強いことがある。しかし、法的拘束力のない枠組みがどこまで実効性を持てるかは不透明だ。

 高い水準の貿易自由化ルールを定めるTPPにも中国を牽制する狙いがあることを忘れてはならない。その中国は昨年、TPP加入を申請した。国有企業の優遇などが指摘される中国が、TPPに加入することは難しいだろうが、米国とその同盟国による対中包囲網を切り崩す思惑があろう。

 TPPには英国や台湾も加入を申請している。米国の離脱後にTPPを主導してきた日本は、バイデン政権に復帰を促し続ける必要がある。

 韓国は対日関係改善を

 戦略は、日本や韓国などとの同盟関係を強化する方針も示した。また「同盟・友好国が相互に関係を強化することを奨励する」とし、悪化している日韓関係の改善も促した。

 韓国の文在寅政権は元徴用工問題や慰安婦問題などで日本との関係を冷却化させた。来月には韓国で大統領選が行われる。日本は新政権発足も見据え、韓国に対日関係改善に取り組むよう求めるべきだ。