【社説】トンガ海底噴火 津波の研究進め防災強化を


15日に起きたトンガの火山噴火を捉えた衛星写真=トンガ気象当局提供(EPA時事)

 南太平洋の島国トンガの海底火山が噴火し、同国や周辺諸国のほか日本や米国など太平洋沿岸の広範な地域に津波が押し寄せた。

 通常の地震による津波とは異なる潮位変動が続く「未知の現象」だった。研究を進め、防災強化につなげたい。

 地震の際とは異なる津波

 噴火があったのは15日午後1時10分ごろ(日本時間)。津波について、気象庁は午後7時すぎ、日本沿岸では「被害の心配なし」とする情報を出した。

 しかし午後8時ごろから国内の太平洋沿岸で潮位の変化が観測され始め、午後11時ごろには1㍍を超える地点も出始めた。気象庁は「津波かどうかは不明」としつつ、警戒を呼び掛けるために津波警報・注意報の枠組みを使うことを決め、16日午前0時15分に発表した。

 情報が混乱したのは、通常の地震による津波とは異なったからだ。噴火に伴う空気の振動や気圧の変化が津波を生じさせたとみられている。こうした現象の影響で、津波の到達時刻が予想より早くなったり、日本近海で潮位が高くなったりして、気象庁は対応に苦慮した。

 気象庁の長谷川直之長官は、津波警報・注意報について「今度同じようなことがあったら迅速に発表したい」と述べた。今回の情報発信について検証するとともに、火山噴火に伴う津波の研究を進めて防災強化に生かす必要がある。

 この津波で青森から鹿児島まで少なくとも8県の約10万8700世帯、計約22万9200人に避難指示が出された。大学入学共通テストでは、中止や開始時刻繰り下げに追い込まれる試験場もあった。

 高知県の漁港では漁船の沈没や転覆などの被害が生じた。国内では人的被害はなかったが、避難に関しては夜間、寒さ、新型コロナウイルス禍などの悪条件が重なった。

 政府の中央防災会議の作業部会は昨年12月、北海道から東北地方の太平洋沖にある日本海溝・千島海溝沿いでマグニチュード(M)9クラスの地震が起きた場合、甚大な津波被害が広範囲に及び、死者は最大約19万9000人に上るとの被害想定を公表した。

 死者数が最悪となるのは、冬の深夜に東北沖の日本海溝で発生し、すぐに避難する人の割合が少ないケースだ。このケースでは、津波から逃れたものの、低体温症によって死亡リスクが高まる人は約4万2000人に上ると見込んだ。

 今回の津波では岩手県や鹿児島県の奄美群島とトカラ列島に津波警報が出された。寒冷な地域はもちろん、日本全国で寒さ対策や夜間の避難対策なども含めた津波への備えを万全にすべきだ。

 復旧へ迅速な援助を

 一方、噴火と津波で大きな被害を受けたトンガを支援するため、日本は飲料水を載せた航空自衛隊のC130輸送機2機を派遣した。

 火山灰を除去するための高圧洗浄機やリヤカーなどを運ぶため、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」も近くトンガに送る。迅速な援助によって復旧に貢献したい。